とはいえ、わたしは単行本のみの読者なので、情報が既に古くなってしまっているかもしれない。
* * *
大好きだった久保園さんが、なんだかとっても怪しくなってきた。
まさかと思いたいのだが、ゆうきまさみの作品では、一見善い人そうなキャラクターがくせ者だったという展開が結構あるので、油断はできない。
最初に「あれっ?」と思ったのは、第7巻193ページの久保園の後ろ姿からあとの展開。
久保園は現場に来ているのに、その後の場面に姿がない。
屋根の上には登らなかったのか?
魁やあかりの目に触れないところで何をしていたのか?
鳥飼にメールで指示を出していたのではないのか?
そう考えると、175ページの鳥飼の電話の相手の口調も久保園のものと考えて違和感がない。
竹之内を現場に呼んだのも、久保園ではないのか?
第7巻では、他にもあかりの目にした竹之内の振る舞いがさまざまに怪しげだが、これも、竹之内から厚い信頼を寄せられている久保園が、あかりの目に怪しげに映るようにと竹之内をうまく操っていたと考えると符合する。
その線で考えてみると、第1巻196ページで平田が携帯で話していた相手も久保園だったのではないかと思えてきた。
このときは現場に久保園の姿はなかったから、別の場所で久保園が平田からの報告を受けることは可能だったはずだ。
こうなると、第4巻30ページで厚労省の資料室で調べ物をしていたという久保園さんが鞄にしまっていた本は何なのかというあたりも気にかかる。
魁とあかりとそして竹之内の周辺には、何らかの大きな組織に通じて情報を流している人間がいて状況を操っているふしがあるのだが、それが久保園なのではないか。
少なくともあかりのことは、久保園はおおっぴらにかなりの確度で意のままに動かしている。
頼りになる良い上司として社会人1年生のあかりを導いているととれる久保園のその振る舞いが、実は、まったく別の意図のもとに行われているものだったとしたら……。
もっとも、久保園がこの読みのように動いていたのだとしても、彼はその思想信条が違っているだけで、人間としては人情味にも厚い、善い人ではあるのだろう。
そうした、人間という複雑怪奇な存在の恐ろしさを鮮やかに描き出して見せるゆうきまさみの卓越した手腕は承知の上で、でも、「久保園さん、とっても好きだったのに〜〜っ!!」と、まだ諦めきれない自分がいたりもする(>_<)
* * *
『白暮のクロニクル』の世界には、魁とあかりに敵対(?)するものとして、「「羊殺し」の犯人」と「オキナガを嫌い貶めようとしているグループ」がいる……あるいは、ある。
そして、あかりと魁と、そしてもしかすると竹之内もまた、このグループの存在に気付いていないらしい。
今のところ「オキナガを嫌い貶めようとしているグループ」のメンバーでわかっているのは、
1.警視庁刑事 鳴宮涼子(故人)
2.赤羽署の刑事 平田
3.平田が携帯で話していた人物
4.エグゼグティブプロデューサー 鳥飼(故人)
5.鳥飼と携帯で話していた人物
6.鳥飼にメールで最後の指示を出した人物
というところだろうか。
で、3、5、6は久保園ではないかとわたしは思ったわけだが、作中にはもう1人怪しい人物がいる。
城南大学付属病院の医師で、あかりが心を寄せている山田一太である。
第7巻77ページで、撮影所に現れた竹ノ内をあかりが目撃したことを受けて、魁は、「来てねえよ。」「来るわけねーだろ。」「俺らがここにいるのも知らねーはずだし。」と言っているが、ここであかりと魁の2人が撮影所にいることを知っていたのは……と考えると、これが山田一太なのである。
彼は、第7巻67ページで、あかりに関心がある故にと思わせて、「ところでお二方は今夜この後のご予定は?」とわざわざ聞くことによって、ふたりの動向を探っている……と考えていいだろう。
もっとも山田一太は若すぎるから、グループの中枢にいて指揮を執る立場にあるということはないだろう。
このグループのメンバーは、いざという場合には自らの命をも犠牲にすることを厭わないほどの非常に強い信念を持って、広く社会に潜在していると考えられる。
だから、作中の誰がこのグループのメンバーであってもおかしくはない。
ただ、このグループのメンバーにオキナガはいないだろう。
* * *
「「羊殺し」の犯人」について考えてみると、第6巻89ページで、「被害者のタイプに共通点がない。」「犯行を隠すつもりもあまりなさそうだ。」「持ち去った臓器も毎回違うしな。」と八名橋が指摘していることから考えると、複数犯の可能性が高いのではないか。
犯行を誇示することに、何らかの意図を持ってもいるのだろう。
「羊殺し」が複数犯だとすると、長年にわたって続けられてきた「羊殺し」はオキナガでなくても可能だということになる。
ならば、「オキナガを嫌い貶めようとしているグループ」が「「羊殺し」の犯人」でもあるのだろうか。
「僕はまぎれもなく「羊殺し」の1人だからさ」という鳥飼の言葉はそのことを示唆しているとも考えられる。
一方、「羊殺し」が単独犯だと考えると、第6巻143ページであかりを見て、「大きな羊は「美しい」のですよ。」と言ったオキナガの入来神父がものすごく怪しい。
この言葉は、次の標的としてあかりを選んだのだと読めるのだ。
とはいえ、入来神父が「「羊殺し」の犯人」だったとしても、必ずしも単独の実行犯ということではないかもしれない。
長い長い時を生きて来た入来神父もまた、陰謀を巡らし、周囲に何らかの組織を育てていてもおかしくないのである。
その真意は謎だが、多分メンバーにオキナガはいないだろうと思われる「オキナガを嫌い貶めようとしているグループ」の大元が、実は、入来神父だったということすら、可能性としてはあるかもしれない。
そもそも、竹之内よりも古いという入来神父の正体はなんなのだろう?
多分、『旧約聖書』や『新約聖書』に登場する人物の誰かかな? とは思うのだが、わたしにはまだわからない。
蘇生と言えば真っ先に思い浮かぶのはあのお方なのだが……、どうかなぁ。
いずれにしても、入来神父はかなりアンビバレントな存在ではあるように思われる。
もっとも、入来神父はあまりにも怪しすぎるから、ミステリーの定石を考えると、むしろ、犯人ではないのかもしれない。
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というあたりが、ここまで読んできてのわたしの推理……とも言えない推理なのだが、ほかにも疑問はいろいろある。
第1巻で凛子にオキナガの殺し方を教えたのは誰なのか。
凛子が魁側の人間になったように思える今、どうしてきちんと問いただして明らかにしないのかわからない。
「羊殺し」が魁たちの把握している範囲内にとどまらず、もっと以前から行われていた可能性もあるのではないかという疑問もある。
昼間活動できるオキナガがいて、他人の戸籍を使っているオキナガがいるということになると、通常人として登場しているキャラクターの中にもオキナガがいる……というのもありなのか。
* * *
第6巻で須本を殺したのが誰なのかというのも気になる点である。
情報の流れを考えると「オキナガを嫌い貶めようとしているグループ」だと思うのだが、須本の首筋にはオキナガのものと思わせる噛み傷が残されているわけで……。
あの噛み傷はフェイクなのか本物なのか。
久保園が怪しい線から考えると、164ページの「私ねえ、つねづね思っているんですが」「これは雪村さんの悪いクセです。」「雪村さんにかかっては、自殺も事故死も殺人事件になってしまう。あまり感心しませんね。」という久保園の言葉と、それに続く場面でしばらく久保園がとっても困った顔をしているのは、魁がいらないことを掘り起こすから、オキナガを陥れるための死体をまたもうひとつ作らなくてはならなくなってしまって困ったもんだという顔に見えてしまったりもする。
そう考えていくと、須本は「オキナガを嫌い貶めようとしているグループ」から情報を与えられていただけで、本当の犯人ではなかったかもしれないとすら思えてきてしまうのだが……。
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按察使家執事である実藤と内務省厚生局の鬼頭は同じ顔をしているように思えるが、この二人には血の繋がりでもあるのだろうか。
実藤はオキナガではないので同一人物ということはないと思うが、「実藤」と「鬼頭」と、名前も似ている。
この二人に繋がりがあるとすると、あかりと魁の情報に通じていると思われる実藤もまた、「オキナガを嫌い貶めようとしているグループ」のメンバーである可能性が高いことになる。
第2巻159ページで鬼頭が眼鏡を取ったとき、魁にはそれが誰であるかの判別がつかなかったことを考えると、実藤が眼鏡を取った顔を見たいのだが、これを描かないところにもまた、作者の意図があるのだろうか。
もっともこれは、全然別の顔として描いているのに、わたしに絵を読む力がないせいでそう見えるだけなのかもしれない。
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紀俊基という古風な名前の夜間衛生管理課課長が登場した時から、わたしは、竹之内唯一は武内宿禰(たけしうちのすくね)なのだと思っている。
武内宿禰は紀氏の祖とされているので、その繋がりでここに紀氏が登場することになったのだろうと考えたのである。
目の上のたんこぶみたいなやっかいなご先祖様の下で仕事をしなきゃならなくて、しかも、その不死のご先祖様と自分の短い人生が一蓮托生となったら、そりゃあ複雑なものがあるだろうなぁと、わたしは紀俊基のひねくれ具合に同情してしまったりもしているのだが……。
ただ、第2巻55ページで、「さすがに」「衛生局局長の肝いりで送り込まれた課長だ。」「現代(いま)も過去(むかし)も変わらないな。」と竹之内が紀俊基のことを考える場面があるので、竹之内自身が意図して紀俊基を部下として引っ張り込んだわけではないらしく、ここらへん、どうなっているのかわからない。
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第1巻冒頭で魁が看取ろうとしている女性は伏木あかりだと思うのだが、そうすると、この「羊殺し」事件は、少なくとも竹之内にとっては有利な形で無事に解決し、あかりは天寿をまっとうするのだろう。
冒頭の二人の会話の口調とやりとりを鑑みるに、二人は事件を通じてより親密になり、愛し合うようになるのだろうと思われるのだが、そうして二人の行く末をさまざまに想像すると大層切なく、万感胸に迫るものがある。
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『白暮のクロニクル』については、今のところこんなことを考えているのだが、さてさて、何処まで読みが当たっていて、何処まで外していることか……、次巻が楽しみでたまらない。
『白暮のクロニクル』とうとう禁断の週刊連載に手を出してしまった(^^ゞ (ネタバレ注意)
『白暮のクロニクル』第8巻読了(ネタバレ注意)
『白暮のクロニクル』第10巻読了(ネタバレ注意)
『白暮のクロニクル』とうとう、終わってしまった。(ネタバレ注意)