書籍データは持っている本のものです。現在最新のデータではありません。
『太字斜体』の見出しは書籍名、「太字」の見出しは単行本収録の作品名です。
「斜体」は引用です。
もっともっと読ませていただきたかったのに…… |
2007年5月17日に逝去された著者の最後の短編集。
暖かく幸せな読後感に浸れる表題作の「ダナエ」が大好きで、何度も読み返しています。
過去に大きな負い目を持って忸怩たる思いを抱いてニヒリスティックに生きる男が、その潔い生き様を貫くことで、失った過去から立ち現れたものと新しい絆を結んで、未来への希望を取り戻す物語。
未来へ繋がる救いを感じさせるラストに著者の新境地を感じて、これからますます期待できそうと喜んだのに……、本当に残念です。
2007年1月刊行の単行本なので、本来ならば「本棚」のほうで書くべきなのですが、著者の逝去の前後に出版された3冊の単行本という流れを考えて、こちらで書きました。
「最後の謎。作家は何を企んでいたのか。」←帯の惹句 |
著者の死によって中断されてしまった最後の長編ミステリー。
主人公のふたりに感情移入して、大層おもしろく興味深く読み進むことができたため、これからというところでの中断にものすごく欲求不満が残ってしまってとても悔しい。
でも、これは一読者のわがままでしかないわけで、この作品の後半だけではなく、まだまだ書くべきもの、書きたいものがあったであろう著者自身の悔しさは如何ばかりであっただろう……と思う。
もっとも、この作品に関しては、ある程度謎が出そろって、疑問点が主人公の口で「整理整頓」されたところで中断しているため、結末に関しては、著者から読者に託されたものであるかのようにも受け取れる。
こういう形でこの作品を中断したこと自体が、自らの死期を意識した上での、著者の企みであったのかもしれない。
もちろん、生還して、完結させることができれば、それがもっとも望ましいことではあったのだろうし、でき得ればと思っていたに違いないのだけど。
* * *
というわけで、以下が、わたし自身のラストを妄想するための、この作品に関するわたしの推理と疑問点。
うーん、妄想のタネ、満杯(^^ゞ
* * *
同時収録の短編「オルゴール」は、ひとりの不幸な女性を介したふたりの気持ちのよい男の邂逅を描いて、希望の持てるしみじみと余韻の残るよいお話になっている。
「小説現代 2006年11月号」に発表されたというこれが、著者の遺作ということになるのかな?
『てのひらの闇』の続編。 |
『てのひらの闇』ですっかり好きになってしまった主人公の堀江がそれなりの現在を持って生きていることに安心しつつ読み始めたのだけれど、「えーっ?!、主人公のあの気持ちのよい親友が、あんな死に方をしてしまうの〜っ?」というところから始まって、『てのひらの闇』のラストでわたしが妄想した方向とはかなりずれてしまった登場人物たちの“今”に違和感を抱きながら、それでもぐいぐい引き込まれて最後まで一気に読んだ。
でも、あの気持ちのよい夫婦があのような形で死ななければいけないなんて……と思うと暗然。
どうも、著者は、好感の持てるキャラクターを惜しげもなく殺してしまう癖があって、読者としては辛いところ。
そして、もう一組のやはり気持ちのよいあの夫婦が、たぶん、主人公のためにうまくいかなくなってしまったっていうのも、なんだか残念。
夫のほうもとても気持ちのよい好感の持てる男だったのになぁ。
あの夫婦はあのまま仲良く暮らしていて、主人公と彼女は友情関係のままでいてくれたほうがわたしとしては好みだった。
三上とナミちゃんのエピソードは楽しい。
* * *
加筆・改稿作業を終えることがかなわなかったというこの作品もまた、作者がその刊行をその目で見ることはできなかったのですネ……。
合掌。
やう少し深くじっくり描き込んで欲しかった(>_<) |
直截で読みやすく、描き出される魔法の数々は眩惑感に満ちて、特に、彩りあふれるティラミン一座の幻術などは、とても楽しい。
それぞれのキャラクターも魅力的に描かれて感情移入しやすく、ラストに至るまでの途中経過は、楽しくドキドキワクワクしながら読めたのだけど……。
読み終わった時点で、物足りないというか、欲求不満の感が残るのは、主人公たちの主体的な行動によってではなくて、超越的なオドという一個の存在の裁量によって、否応のない形で大団円がもたらされるから。
感情移入のできる存在として描かれている登場人物たちは皆、硬直した理不尽な状況の中で苦しんであがいているのだけれど、かれらのあがきが問題の解決にもうひとつつながらないため、かれらはただ、オドという存在のもたらしてくれた、自分に都合のよい状況を喜んで受け取っただけというように、わたしには読めてしまったのだ。
うーん、こういうのって、趣味じゃない(>_<)
せめて、オドかエルヴァーが、もっと感情移入のできる存在に描かれていれば、もう少し違った感想を持てたかもしれない。
敵役を振られていた王やヴァローレンやそのほか数人の心の変化もどうにも唐突にすぎるし……、著者の設定したテーマがストレートに見えすぎるってあたりも、なんだかおもしろくなかった。
あの『妖女サイベルの呼び声』や『イルスの竪琴』の“マキリップ”と思ってしまうわたしは、マキリップに過剰な期待がありすぎるのかもしれません。
でした。
マキリップの『妖女サイベルの呼び声』と『イルスの竪琴』については、“蓼虫”のもう一つのHP『ファンタジー ノベルズ ガイド』に書いたので、そちらへのリンクを張っておきます。
鮫島と京極堂が読みたくて……(⌒〜⌒) |
「超人気ミステリー作家7人が」秋本治の『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の「両さんを描」いたアンソロジー。
大沢在昌の「幼な馴染み」で、《新宿鮫シリーズ》の鮫島の平和な1日を、京極夏彦の「ぬらりひょんの褌」で、京極堂ファミリーののほほんとなかなか幸せそうな晩年の姿を垣間見ることができたのが嬉しかった。
(註)《新宿鮫シリーズ》と《京極堂シリーズ》は何度か書いているので、それぞれ、著者名索引の大沢在昌と京極夏彦のところへのリンクを張っておきます。
未来に働く女たちの物語 |
現在と地続きのちょっとだけ未来、その時代の巨大産業のひとつと化した宇宙産業の末端で、普通に働く女たちの7つの物語をまとめた短編集。
やっかいな上司や理不尽な男社会と戦いながら、まっすぐにたくましく、自分の未来を切り開いていこうと頑張る女たちの姿がさわやかに描かれて、好感を持って楽しく読めた。
軌道エレベーターを擁する巨大企業CANTECの経営者、マダム・アリッサ・ハービンジャーの物語を読んでみたい……って、わたしが知らないだけで、もう書かれていたりするのかな?