異質の生命体のありように生命工学専攻修士課程修了の専門性を(多分)生かしてアプローチする、非常に読みやすいハードSF。
わたしは大変気に入った。
「オーラリメイカー」は、地球人類由来の生命体も登場するとはいえ、わたしたちと同種の人間がひとりもいない異種生命体たちの心理描写としては、これでも人間的すぎる気もするくらいなので、それぞれの生命体の主観で語られる淡々とした語り口が心地よく、一転、「虹色の蛇」は、語り口も心理描写も大変人間的。
悪意の不在が物足りないとも思えるが、現実に疲れた心にはそれが心地よくもあるので、これはこれで好ましい。
もっとも、「虹色の蛇」の主人公は、異種族間の交流を取り持つ外交官というにはおバカにすぎてもどかしい。
せいぜいが通訳程度の能力しかなかったから、その特異な語学力(?)が意味をなくした時点で外交官としての職を失ったのではないかとすら思ってしまった。
主人公とコンビを組んだ11歳の少年があまりにも賢いので、余計に主人公のおバカさ加減が際立ってしまったようにも思われる。
登場する異種生命体のそれぞれに既視感があることも気にかかる。
「オーラリメイカー」に登場する異種生命体の多くが、《天冥の標》の魅力的で破天荒なさまざまな異種生命体をハードSFの側面からクリアアップした感じだし、「虹色の蛇」の生きている雲にも先行作品があるような……。
ともあれ、理論的科学的に納得できる形に描き出された、さまざまに魅力的な異形の生命体や知性を堪能できる、わたしにとっては嬉しい一冊。