『ビッグトレイル』といっても、ジョン・ウェイン主演の『THE BIG TRAIL』ではなくて、1965年公開、バート・ランカスター主演の『The Hallelujah Trail』のほう。
VTR で録画したものを持っていたのだが、VTR の機械が壊れてしまい、DVD が出るのをずっと待っていた。
で、ようやく出たので購入。
やっぱり面白い。
この映画は、たいていのコメディを面白いと思えない、ユーモア感覚が少しずれているらしいわたしが、珍しく笑えて楽しい気持ちになれる映画なのである。
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「南北戦争が終結し、インディアンの部族とも平和条約が結ばれ、軍隊は治安部隊と様変わりした」1867年。
ウィスキーが底をつきそうなデンバーの町にこれまでになく厳しい冬のやってくる兆候が。
交通網の途絶えるであろうデンバーで、かれらは一冬、ウィスキーなしで過ごさなければならなくなってしまうのか……。
とにかくウィスキーを手に入れたいデンバーの鉱夫(これは差別用語?)たちとインディアン(完全に差別用語。ごめんなさい)のスー族部隊、禁酒運動を信条とする女性活動家とその支持者たちの婦人部隊、まじめな共和党員を標榜する金銭至上主義の実業家と、かれに雇われてウィスキー輸送に携わる、労働問題にうるさいアイルランド人移民の幌馬車隊、といった面々がそれぞれの立場で突っ走り、かれらの安全を確保するべく奔走するラッセル砦の騎兵隊を巻き込んで、てんやわんやの大騒動。
かれらに振り回されながら、騎兵隊を率いて様変わりした任務にまじめに取り組もうとする、バート・ランカスター演じる歴戦の勇士ゲアハート大佐の困惑顔がおかしい。
さらには、ゲアハート大佐の最愛の一人娘までもが禁酒運動の婦人部隊に参加してしまい……。
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西部劇の黄金期を支えた白人目線の単純明快な価値観が通用しなくなり、西部劇が変容衰退していく過渡期に製作された作品であるためなのか、それまでの西部劇が作り上げてきたステレオタイプを皮肉る風刺がふんだんに散りばめられていて、これが楽しい。
冒頭、平和条約を結んだ見返りに、かれらにとっては「物珍しい」はずの中古のライフルを貰ったネイティブアメリカンが、物慣れた手つきでその品定めをするといったところで、もうおかしくて笑えてしまう。
簡単に相手をぶん殴って気絶させてしまったり、銃弾が派手に飛び交ったりといった乱暴な描写も多々あるが、そこはそれ、コメディ映画のお約束。
誰も死なないどころか怪我すらしないうえ、本当に酷い目に遭う人もいないという祝祭空間での物語になっていて、気持ちよく笑えて楽しい余韻に浸ることができる。
悪役を振られて一番酷い目に遭ったと思われる実業家ウォリンガムにさえ、最後はハッピーを感じさせるオチが用意されているのである。
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現在の視点で見ると、ネイティブアメリカンや女性の描き方にはやはり問題ありとは思われる。
ネイティブアメリカンに関しては、白人から見たステレオタイプなインディアン像を皮肉って、かれらを人間らしい楽しい仲間として描いてはいるものの、それまでの西部劇で定着してしまった偏見に満ちたインディアン像を踏襲したものであることに変わりはないし、女性の描き方も、可愛い女というキーワードで結婚を幸せなゴールにしてしまうというあたりがなんとも……、まあ、これでも当時としては精一杯かもしれないのだが。
他にもわたしの気がつかないところで現在では問題になりそうなところがたくさんあるのだろう。
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とはいえやっぱりわたしはこの作品が好きなのだが、残念なことにこの DVD、北米版は165分、日本公開版は146分なのに、120分しかない短縮版。
ところどころで話の筋が通っていないのは、多分そのためなのだろう。
なんとか完全版を入手したいと思うのだが、北米版はリージョンコードの関係で見られず、これ1本のために再生用の機械をもう1台買うわけにもいかないし……。
日本語字幕と英語字幕(これがあると本当は何と言っているかがわかってとても助かる)のついた完全版が出てくれると嬉しいんだけどなぁ。
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ところでこの映画、お色気を添えるためなのか、やたらと入浴シーンがある。
もっとも、裸体をさらす(?)バート・ランカスターもリー・レミックも婦人部隊の面々も、胸から下は見せないのであまり色っぽくはないのだが、ゲアハート大佐のラッセル砦の自室には給湯式の入浴設備があるし、さらには、ゲアハート大佐も婦人部隊の面々も荒野を移動するのに風呂桶持参で、水と燃料が調達できるところでは必ず入浴しているようなのだ。
しかし、どうもわたしには、あの当時のアメリカ西部の人々が、あんなに頻繁に入浴していたとは思えない。
当時の実際のアメリカ西部の入浴事情は、本当はどのようなものだったのだろう。