2013年12月30日
《天冥の標》『新世界ハーブC』読了(ネタバレ注意)
どこまで読めているかはわからないけど、ちょっとメモっφ(.. )
* * *
《救世群(プラクティス)》が原種冥王斑パンデミックを引き起こしたことで、太陽系はミスチフの所期の目的通りになってしまったのか?
「そのウイルスで地球人らぁ九割方殺しおり、生き延びたる残りを生態系に組み込むつもりでおったのです」
「ミスチフの計画ではあれで全地球のほとんどが死んで、その代わりに、強い免疫力を持つ五パーセントの個体が生き残るはずだった」
「その五パーセントに高度なテクノロジーを与えて爆発的に復興させ、勢いをつけて宇宙開発に導き、ミスチフ自身の次の星への旅立ちを後押しさせる」――『宿怨』
地球からハーブCに追いついたという鯨波の二人がコーヒーを「記録でしか見たことがない」のは、地球人類が「芸術や娯楽や幸福などについて(『メニー・メニー・シープ』)」配慮せず効率のみを重視するオムニフロラの生態系の中に取り込まれてしまったからだと思われる。
しかし彼らが、「救助要請を出されますか? というか出してほしいんですがね(『メニー・メニー・シープ』)」と真剣に聞いたのは何故か?
救助要請を出さないと彼らはセレスに手を出せないのか?
しかも、彼らには「冥王斑」がない。
カルミアンは《救世群(プラクティス)》の原種冥王斑散布に力を貸してミスチフの戦略に協力したように思えるが、これはただ単に太陽系に来たミスミィが愚かだったためなのか?
* * *
「「救世群(プラクティス)」は深く恨んで隠れた」――『メニー・メニー・シープ』
《救世群(プラクティス)》の原種冥王斑散布は太陽系人類の大半を死に至らしめ、太陽系を原種冥王斑からの回復者だけの世界にしてしまったと思われる。
しかし、ミヒルの思惑とは違って、この第二次冥王斑パンデミックからの回復者たちが《救世群(プラクティス)》と価値観を共有することはないだろう。
人類すべてが感染してしまった以上、生き残った原種冥王斑回復者はもはや隔離される必要もなく、それまでの価値観をそのまま持った人類として生きていくだけの話であって、むしろ、この一大惨事を引き起こした《救世群(プラクティス)》を憎み、彼らを許しはしないのではないか。
生き残った太陽系の人類はもはや《救世群(プラクティス)》を恐れる必要はない。
むしろ、《救世群(プラクティス)》のほうが、回復者から原種冥王斑に感染することを恐れなければならないかもしれない。
「ばあちゃんは冥王斑回復者だったけれど、シティに振りまかれたのは原種の冥王斑だった。だからやっぱり……」――『宿怨』
《救世群(プラクティス)》は、太陽系の人類(やその他諸々)から隠れてセレスに潜んだのか?
これと関連しての疑問だが、生まれながらの《救世群(プラクティス)》でありながら再感染したというミヒルがかかったのは原種冥王斑なのか?
ミヒルから他の《救世群(プラクティス)》への再感染はなかったのか?
* * *
セレスはカンミア母星に向かって航行中?
ブラックチェンバー孤立から半年後に振動があり、さらにその十五日後に再び激しい振動。
最初の振動の後、重力が強くなり始めた。
「セレスを丸呑みして、ジニ号を引っ張るのがいいです」
「事故と行き止まりのないときには成功する」――『宿怨』
「すべての《救世群(プラクティス)》にセレスに集まるように指示が出ている」――『宿怨』
セレスには、硬殻化して繁殖能力を失ったすべての《救世群(プラクティス)》がいて、繁殖能力を取り戻すためにカンミア母星へ向かっているのか?
彼らは代を重ねることができないから、現在の個体が生きてカルミアンの総女王のもとに到達しなければならない。
そのため彼らはジニ号の冬眠の技術が必要だった?
セレスには、ジニ号、シェパード号、ハニカム、ドロテア・ワットがある。
航行手段はカルミアンの技術を使い、エネルギーはドロテア・ワットから取っている?
* * *
繁殖能力のない人工生命体の《恋人たち(ラバーズ)》は人間に見えるので惑わされるが、人間とはまったく別の価値観で動いていてはかりがたく、さまざまな勢力にいいように利用されていて、とても怪しい。
また、無線通信で相互に結ばれている《恋人たち(ラバーズ)》は、情報生命体のリソースにもなり得る集団なのではないか?
* * *
「おそらくオムニフロラは何一つ絶滅させない。猛毒の菌種をワクチン製造のために保管する生物兵器の研究所のように、どんなに問題のあるものでも抹殺しようとはしない」――『羊と猿と百掬の銀河』
なんだか、ミスチフにとってのセレスは、この「猛毒の菌種をワクチン製造のために保管する生物兵器の研究所」みたいにも思えてしまって、セレスがカンミア母星へ向かって航行中というのもまやかしなのかな? とも思ってしまう。
「蟻を飼ったことがありますか? ガラスの水槽に土を入れて、交尾を終えた女王蟻を置くと、彼女は地下に潜って卵を産む。じきにたくさんの働き蟻が生まれて、立派な巣を造る。見ていると時を忘れます。――が、時々はちょっかいを出したくなるでしょ。巣穴を崩してみたり、適当な一匹を蟻地獄に放り込んでみたり」
「僕が水槽を用意したわけじゃありませんよ。あなた方はこの宇宙という広大な土地で、自力ですべての事象を動かしている。僕は本当に見物しているだけなんですよ。手出しはちょっぴりしかしていません。ほんのちょっぴり、ね」――『メニー・メニー・シープ』
恋人たち(ラバーズ)》の機械の身体を借りて現れたノルルスカインの言葉だが、このノルルスカインは、やたら陽気で「ふふふふ」言ってばかりいるところをみると、ミスチフに汚染されてしまっているのではないかと思うのだが、どうだろう?
無責任に観察を楽しみおもしろがっているその姿は、ノルルスカインの元々の性(さが)がオムニフロラに取り込まれて変質したものとだ考えると、とてもしっくりくるのだが……。
「私の目的はあなた方を見守ること。人の苦難と歓喜を知ることですよ」
もっとも、ミスチフにとっても、生態系を拡張するという意味があるから、やっぱりセレスはカンミア母星へ向かって航行中ではあるのかなぁ。
* * *
外界との接触をせず、羊の中に隠れ潜むことで汚染されることを避けているノルルスカインは、オムニフロラに汚染されていないように思えるが、このノルルスカインは、ミスチフに対抗するためにカルミアンの総女王と協力したいのか?
「せー、その後ろに隠れおる三人目の《偽薬売り(ダダー)》を、何らか手の差し込めて、引き結びおるのです。ミスチフらぁ、けげり返しおるために」――『宿怨』
* * *
《救世群(プラクティス)》が原種冥王斑パンデミックを引き起こしたことで、太陽系はミスチフの所期の目的通りになってしまったのか?
「そのウイルスで地球人らぁ九割方殺しおり、生き延びたる残りを生態系に組み込むつもりでおったのです」
「ミスチフの計画ではあれで全地球のほとんどが死んで、その代わりに、強い免疫力を持つ五パーセントの個体が生き残るはずだった」
「その五パーセントに高度なテクノロジーを与えて爆発的に復興させ、勢いをつけて宇宙開発に導き、ミスチフ自身の次の星への旅立ちを後押しさせる」――『宿怨』
地球からハーブCに追いついたという鯨波の二人がコーヒーを「記録でしか見たことがない」のは、地球人類が「芸術や娯楽や幸福などについて(『メニー・メニー・シープ』)」配慮せず効率のみを重視するオムニフロラの生態系の中に取り込まれてしまったからだと思われる。
しかし彼らが、「救助要請を出されますか? というか出してほしいんですがね(『メニー・メニー・シープ』)」と真剣に聞いたのは何故か?
救助要請を出さないと彼らはセレスに手を出せないのか?
しかも、彼らには「冥王斑」がない。
カルミアンは《救世群(プラクティス)》の原種冥王斑散布に力を貸してミスチフの戦略に協力したように思えるが、これはただ単に太陽系に来たミスミィが愚かだったためなのか?
* * *
「「救世群(プラクティス)」は深く恨んで隠れた」――『メニー・メニー・シープ』
《救世群(プラクティス)》の原種冥王斑散布は太陽系人類の大半を死に至らしめ、太陽系を原種冥王斑からの回復者だけの世界にしてしまったと思われる。
しかし、ミヒルの思惑とは違って、この第二次冥王斑パンデミックからの回復者たちが《救世群(プラクティス)》と価値観を共有することはないだろう。
人類すべてが感染してしまった以上、生き残った原種冥王斑回復者はもはや隔離される必要もなく、それまでの価値観をそのまま持った人類として生きていくだけの話であって、むしろ、この一大惨事を引き起こした《救世群(プラクティス)》を憎み、彼らを許しはしないのではないか。
生き残った太陽系の人類はもはや《救世群(プラクティス)》を恐れる必要はない。
むしろ、《救世群(プラクティス)》のほうが、回復者から原種冥王斑に感染することを恐れなければならないかもしれない。
「ばあちゃんは冥王斑回復者だったけれど、シティに振りまかれたのは原種の冥王斑だった。だからやっぱり……」――『宿怨』
《救世群(プラクティス)》は、太陽系の人類(やその他諸々)から隠れてセレスに潜んだのか?
これと関連しての疑問だが、生まれながらの《救世群(プラクティス)》でありながら再感染したというミヒルがかかったのは原種冥王斑なのか?
ミヒルから他の《救世群(プラクティス)》への再感染はなかったのか?
* * *
セレスはカンミア母星に向かって航行中?
ブラックチェンバー孤立から半年後に振動があり、さらにその十五日後に再び激しい振動。
最初の振動の後、重力が強くなり始めた。
「セレスを丸呑みして、ジニ号を引っ張るのがいいです」
「事故と行き止まりのないときには成功する」――『宿怨』
「すべての《救世群(プラクティス)》にセレスに集まるように指示が出ている」――『宿怨』
セレスには、硬殻化して繁殖能力を失ったすべての《救世群(プラクティス)》がいて、繁殖能力を取り戻すためにカンミア母星へ向かっているのか?
彼らは代を重ねることができないから、現在の個体が生きてカルミアンの総女王のもとに到達しなければならない。
そのため彼らはジニ号の冬眠の技術が必要だった?
セレスには、ジニ号、シェパード号、ハニカム、ドロテア・ワットがある。
航行手段はカルミアンの技術を使い、エネルギーはドロテア・ワットから取っている?
* * *
繁殖能力のない人工生命体の《恋人たち(ラバーズ)》は人間に見えるので惑わされるが、人間とはまったく別の価値観で動いていてはかりがたく、さまざまな勢力にいいように利用されていて、とても怪しい。
また、無線通信で相互に結ばれている《恋人たち(ラバーズ)》は、情報生命体のリソースにもなり得る集団なのではないか?
* * *
「おそらくオムニフロラは何一つ絶滅させない。猛毒の菌種をワクチン製造のために保管する生物兵器の研究所のように、どんなに問題のあるものでも抹殺しようとはしない」――『羊と猿と百掬の銀河』
なんだか、ミスチフにとってのセレスは、この「猛毒の菌種をワクチン製造のために保管する生物兵器の研究所」みたいにも思えてしまって、セレスがカンミア母星へ向かって航行中というのもまやかしなのかな? とも思ってしまう。
「蟻を飼ったことがありますか? ガラスの水槽に土を入れて、交尾を終えた女王蟻を置くと、彼女は地下に潜って卵を産む。じきにたくさんの働き蟻が生まれて、立派な巣を造る。見ていると時を忘れます。――が、時々はちょっかいを出したくなるでしょ。巣穴を崩してみたり、適当な一匹を蟻地獄に放り込んでみたり」
「僕が水槽を用意したわけじゃありませんよ。あなた方はこの宇宙という広大な土地で、自力ですべての事象を動かしている。僕は本当に見物しているだけなんですよ。手出しはちょっぴりしかしていません。ほんのちょっぴり、ね」――『メニー・メニー・シープ』
恋人たち(ラバーズ)》の機械の身体を借りて現れたノルルスカインの言葉だが、このノルルスカインは、やたら陽気で「ふふふふ」言ってばかりいるところをみると、ミスチフに汚染されてしまっているのではないかと思うのだが、どうだろう?
無責任に観察を楽しみおもしろがっているその姿は、ノルルスカインの元々の性(さが)がオムニフロラに取り込まれて変質したものとだ考えると、とてもしっくりくるのだが……。
「私の目的はあなた方を見守ること。人の苦難と歓喜を知ることですよ」
もっとも、ミスチフにとっても、生態系を拡張するという意味があるから、やっぱりセレスはカンミア母星へ向かって航行中ではあるのかなぁ。
* * *
外界との接触をせず、羊の中に隠れ潜むことで汚染されることを避けているノルルスカインは、オムニフロラに汚染されていないように思えるが、このノルルスカインは、ミスチフに対抗するためにカルミアンの総女王と協力したいのか?
「せー、その後ろに隠れおる三人目の《偽薬売り(ダダー)》を、何らか手の差し込めて、引き結びおるのです。ミスチフらぁ、けげり返しおるために」――『宿怨』
Posted by 庵主 at 05:54 | 本
2013年12月19日
『氷と炎の歌』サーセイの不幸(ネタバレ注意)
わたしが女性の視点キャラで嫌いなのは、キャトリン、サンサ、サーセイといったところ。
いずれも自らの馬鹿を自覚しないで周りに迷惑――この世界の迷惑は人の死をすら招くので笑い事ではない――を振りまく困ったチャンばかり。
固執が強すぎて、一度思い込むと他の可能性に思いを巡らせることができず、間違った道を意固地に突き進んでしまうといったあたりがこの三人の共通項といったところかな?
* * *
それでもサーセイには共感できるところがあって、彼女にはなんとか立ち直ってくれないかなぁと思ったりもする。
サーセイの不幸は男性優位社会の中で女に生まれてしまったことであり、サーセイ自身がそれを充分自覚して、なんとか打開の道を見つけようと戦っている。
サーセイはタイウィンの長子であるにも関わらず、女であるが故にタイウィンの後嗣となることができず、父の政争の具として自らの意思とは関係なく政略結婚を繰り返すことを強いられる。
ファザコンのサーセイには、父のようになりたい、父に認められたい、父を超えたいという強烈な思いがあるにも関わらず、政治を動かして自らの才を誇ることも、剣を取って武勇を示すことも許されない。
そんな彼女が父の死によって軛から解き放たれる。
正式にキャスタリーロックの城主となり、摂政太后として思うがままに権力を振るうという、今まで望んでも許されなかった道を歩き始めるのだ。
ところが悲しいことに、彼女には自分で思い込んでいるほどの能力がない。
さらには、彼女には帝王学の素養もなく、同じような立場に置かれた女性のロールモデルも身近にない。
そのため彼女がやることは、ことごとく裏目に出てしまう。
「まわりにいるのは、敵と能なしばかり」と彼女は嘆くが、そんなことはこうした世界の為政者ならば当然のこととして心得ておかなければならないことだろう。
彼女のような不安定な立場にある為政者ならば、敵であろうが能なしであろうが、それぞれがどのような人物であるかを把握して、かれらがそれぞれに、どのような場面でどう動くかを予測しながら、それぞれをうまく使わなければならないはずなのだ。
しかし、彼女には人間心理に対する洞察力がない。
人間心理に対する洞察力がないから、自らの施策が人々にどのように受け取られるかもわからない。
本来なら心強い味方であったはずの人々も彼女から離れて行ってしまう。
子供たちの資質を見誤るから子育てにも失敗する。
彼女の窮状は結局自分自身が招いたことなのだが、彼女にはそれがわからない。
うーん、これでは、彼女が男に生まれていても、思い通りの人生は送れなかっただろうなぁ……。
* * *
それにしても、不貞の罪を贖う「贖罪の道行き」で、彼女があそこまで崩れてしまったのは悲しい。
ジェイミーとの関係、そして子供たちの子種の秘密は別として、彼女が男だったら、多数の異性とどんな放埒な関係を持ったところでそれを断罪されることなどないわけで、これもまた、サーセイが女に生まれてしまったための不幸に他ならない。
サーセイはその不公平に怒ってもよいと思うのだが、彼女の思いはそこにまでは至らない。
せめて彼女が最後まで頭を上げて堂々としていられれば、不本意ながらの尊崇を集めることもできたのではないかと思うのだが、そこまでの真の矜持は彼女にはなかったようだ。
ラニスターの血に生まれたというだけで「獅子」になれるものでもないのだろう。
結局その点でも、彼女は自らを見誤っていたということになる。
* * *
しかし……、誰でも年を取れは身体が変わっていくのは当然なのに、サーセイはそれをそのまま認めることはできなかったのだろうか。
開き直って「それが悪いか」と開き直ってしまえば良かったのに……。
『氷と炎の歌』の男性優位社会の中で美人に生まれついた者にとって、美しくあること、美しくあり続けることは、何にも勝る至上命題なのかもしれない。
美しくなくなったとき、男性社会の中にかろうじて認められていた彼女たちの価値はなくなってしまうのだから。
そう言えば、ブライエニーを初めて見たときのキャトリンは「心からかわいそうに思」い、「醜い女ほど不幸なものがこの世にあるだろうか?」と思ったし、自分を美人と思っているサンサはアリアのことを「馬面」とののしって蔑んだ……。
これはそういう世界の物語なのだろう。
* * *
リアナ似のアリアが絶世の美女に成長してサンサの前に現れたとき、サンサがどんな反応を見せるのか……、と想像するのは楽しい(^^)v
いずれも自らの馬鹿を自覚しないで周りに迷惑――この世界の迷惑は人の死をすら招くので笑い事ではない――を振りまく困ったチャンばかり。
固執が強すぎて、一度思い込むと他の可能性に思いを巡らせることができず、間違った道を意固地に突き進んでしまうといったあたりがこの三人の共通項といったところかな?
* * *
それでもサーセイには共感できるところがあって、彼女にはなんとか立ち直ってくれないかなぁと思ったりもする。
サーセイの不幸は男性優位社会の中で女に生まれてしまったことであり、サーセイ自身がそれを充分自覚して、なんとか打開の道を見つけようと戦っている。
サーセイはタイウィンの長子であるにも関わらず、女であるが故にタイウィンの後嗣となることができず、父の政争の具として自らの意思とは関係なく政略結婚を繰り返すことを強いられる。
ファザコンのサーセイには、父のようになりたい、父に認められたい、父を超えたいという強烈な思いがあるにも関わらず、政治を動かして自らの才を誇ることも、剣を取って武勇を示すことも許されない。
そんな彼女が父の死によって軛から解き放たれる。
正式にキャスタリーロックの城主となり、摂政太后として思うがままに権力を振るうという、今まで望んでも許されなかった道を歩き始めるのだ。
ところが悲しいことに、彼女には自分で思い込んでいるほどの能力がない。
さらには、彼女には帝王学の素養もなく、同じような立場に置かれた女性のロールモデルも身近にない。
そのため彼女がやることは、ことごとく裏目に出てしまう。
「まわりにいるのは、敵と能なしばかり」と彼女は嘆くが、そんなことはこうした世界の為政者ならば当然のこととして心得ておかなければならないことだろう。
彼女のような不安定な立場にある為政者ならば、敵であろうが能なしであろうが、それぞれがどのような人物であるかを把握して、かれらがそれぞれに、どのような場面でどう動くかを予測しながら、それぞれをうまく使わなければならないはずなのだ。
しかし、彼女には人間心理に対する洞察力がない。
人間心理に対する洞察力がないから、自らの施策が人々にどのように受け取られるかもわからない。
本来なら心強い味方であったはずの人々も彼女から離れて行ってしまう。
子供たちの資質を見誤るから子育てにも失敗する。
彼女の窮状は結局自分自身が招いたことなのだが、彼女にはそれがわからない。
うーん、これでは、彼女が男に生まれていても、思い通りの人生は送れなかっただろうなぁ……。
* * *
それにしても、不貞の罪を贖う「贖罪の道行き」で、彼女があそこまで崩れてしまったのは悲しい。
ジェイミーとの関係、そして子供たちの子種の秘密は別として、彼女が男だったら、多数の異性とどんな放埒な関係を持ったところでそれを断罪されることなどないわけで、これもまた、サーセイが女に生まれてしまったための不幸に他ならない。
サーセイはその不公平に怒ってもよいと思うのだが、彼女の思いはそこにまでは至らない。
せめて彼女が最後まで頭を上げて堂々としていられれば、不本意ながらの尊崇を集めることもできたのではないかと思うのだが、そこまでの真の矜持は彼女にはなかったようだ。
ラニスターの血に生まれたというだけで「獅子」になれるものでもないのだろう。
結局その点でも、彼女は自らを見誤っていたということになる。
* * *
しかし……、誰でも年を取れは身体が変わっていくのは当然なのに、サーセイはそれをそのまま認めることはできなかったのだろうか。
開き直って「それが悪いか」と開き直ってしまえば良かったのに……。
『氷と炎の歌』の男性優位社会の中で美人に生まれついた者にとって、美しくあること、美しくあり続けることは、何にも勝る至上命題なのかもしれない。
美しくなくなったとき、男性社会の中にかろうじて認められていた彼女たちの価値はなくなってしまうのだから。
そう言えば、ブライエニーを初めて見たときのキャトリンは「心からかわいそうに思」い、「醜い女ほど不幸なものがこの世にあるだろうか?」と思ったし、自分を美人と思っているサンサはアリアのことを「馬面」とののしって蔑んだ……。
これはそういう世界の物語なのだろう。
* * *
リアナ似のアリアが絶世の美女に成長してサンサの前に現れたとき、サンサがどんな反応を見せるのか……、と想像するのは楽しい(^^)v
2013年12月14日
『氷と炎の歌』ジョン・スノウは誰の子か?(ネタバレ注意)
ジョン・スノウはあまりに真っ当すぎて、わたしにはおもしろみの感じられない、魅力のないキャラクターでしかないのだが、彼がこの小説の一方の重要人物であることに違いはなく、彼が誰の子であるかがこの小説の大事な鍵のひとつであるのは確かだろう。
わたしは、ジョン・スノウは、ロバート・バラシオンとリアナ・スタークの子ではないかと思っている。
* * *
ジョン・スノウがスターク家の特徴を色濃く受け継いでいるところを見ると、彼がスタークの血を持つことは確かだろう。
しかし、ジョンと同様、あまりにも真っ当すぎるエダードのあの性格や考え方を鑑みるに、ジョン・スノウがエダードの子であるとは考えづらい。
だとすると、エダードがあれだけ大事に守り育てていたスタークの血を持つこどもの親は、リアナ以外にはあり得ないのではなかろうか。
血まみれのベッドで熱病のために死んだリアナ……、その血は出産のためではなかったのか。
リアナの最後の言葉は、「約束して、ネッド」。
リアナはエダードに何を約束させたのか。
* * *
ジョン・スノウの母親がリアナ・スタークだとすると、その父親として疑わしいのはレイガー・ターガリエンとロバート・バラシオンということになるだろう。
* * *
ジョン・スノウの父親はレイガー・ターガリエンなのだろうか。
しかし、ジョン・スノウは、火傷をし、その火傷が未だに癒えていない。
だから彼は、ドラゴンではないし、デナーリスの3頭の竜に乗る者の一人でもないだろう。
明らかにターガリエンの血を持つにも関わらず、溶けた黄金によって死んでしまったヴィセーリスのように、ターガリエンの血筋であってもドラゴンではないものは大勢いる……、というより、それが大多数であって、むしろ、ドラゴンに生まれつく者は希少な存在であるようだ。
だから、ジョン・スノウがドラゴンではなくとも、彼にターガリエンの血が入っていることはあり得よう。
しかし、「濃い灰色」の目をしたジョン・スノウは、ターガリエンの血を持つ者ではないように、わたしには思われる。
* * *
ジョン・スノウの目の色は「濃い灰色」だが、髪の色は……わからない。
ジョン・スノウの父親がロバート・バラシオンだとすると、ジョン・スノウの髪の色は黒くなくてはならないはずだが、その髪の色を作者は巧妙に隠している。
そしてそのことが、ジョン・スノウがロバート・バラシオンの子であることの証であるようにわたしには思われる。
* * *
ロバートはあのような姿でこの小説に登場したために、ろくでもない男であるようにも見えてしまう。
しかし若い頃のロバートは、その若さに任せて女を作ることはあっても、エダードか最愛の妹リアナに「立派で誠実な男であり、心から彼女を愛するだろう」と保証することのできる男でもあったのだ。
そしてロバートは最後までリアナを愛し、悼んでいた。
エダードはロバートを支持し、最後まで彼を支えようとしていた。
ロバートのリアナへの愛は本物だったのだろう。
ロバートは結局リアナの死を乗り越えることができず、そのため、この小説への登場時点で、彼はあのような姿になりはててしまっていたのではなかろうか。
対して、ひどく理想的な形で、しかし、伝聞によってしか語られることのないレイガーの実像はどのようなものであったのか……。
ロバートのレイガーへの憎悪が正統なものであるのなら、レイガーはどのような非道をリアナに対して行なったのだろうと、わたしは考えてしまうのだ。
* * *
リアナの最後の言葉は、「約束して、ネッド」。
リアナはエダードに何を約束させたのか……。
それは、彼女の息子の存在を世に隠し通すことではなかったのか。
玉座の争いから息子を遠ざけて、平穏な人生を送らせること……、それが彼女の最後の望みではなかったのか。
だからエダードは、ロバートが鉄の玉座についてなお、ジョン・スノウが何者であるかを隠し通さなければならなかったのではないか。
だからエダードは、キャトリンの心を苛み、夫婦の関係に亀裂を入れることになってもなお、それを隠し通さなければならなかったのではないか。
* * *
ただ、結婚の前にリアナがロバートに身体を許したかどうかはわからない。
むしろ、レイガーの方が彼女を犯すという形でリアナと身体の関係を持った可能性は高いのだ。
だから、ターガリエンの血を憎悪するロバートの手からジョン・スノウを守るために、エダードは彼の素性を隠していたのだと考えることもできる。
しかし、ロバートが本当にエダードの考えているような男であるのなら、ジョン・スノウがたとえレイガーの子であったとしても、ロバートがリアナの子を殺すことはなかったのではないか……。
* * *
未だ書かれざる物語がなにを語ろうとしているかを考えるのはひどく楽しいけれどもどかしい。
わたしが生きている間に物語が終わってくれるといいんだけどなぁ……。
(付記 : 2013年12月19日)
うっかりしていました。
ロバート王にはターガリエンの血が入っているので、ジョン・スノウがロバート・バラシオンの子であるとしても、彼にはどのみちターガリエンの血が入っていることにはなるのでありました(^^ゞ
わたしは、ジョン・スノウは、ロバート・バラシオンとリアナ・スタークの子ではないかと思っている。
* * *
ジョン・スノウがスターク家の特徴を色濃く受け継いでいるところを見ると、彼がスタークの血を持つことは確かだろう。
しかし、ジョンと同様、あまりにも真っ当すぎるエダードのあの性格や考え方を鑑みるに、ジョン・スノウがエダードの子であるとは考えづらい。
だとすると、エダードがあれだけ大事に守り育てていたスタークの血を持つこどもの親は、リアナ以外にはあり得ないのではなかろうか。
血まみれのベッドで熱病のために死んだリアナ……、その血は出産のためではなかったのか。
リアナの最後の言葉は、「約束して、ネッド」。
リアナはエダードに何を約束させたのか。
* * *
ジョン・スノウの母親がリアナ・スタークだとすると、その父親として疑わしいのはレイガー・ターガリエンとロバート・バラシオンということになるだろう。
* * *
ジョン・スノウの父親はレイガー・ターガリエンなのだろうか。
しかし、ジョン・スノウは、火傷をし、その火傷が未だに癒えていない。
だから彼は、ドラゴンではないし、デナーリスの3頭の竜に乗る者の一人でもないだろう。
明らかにターガリエンの血を持つにも関わらず、溶けた黄金によって死んでしまったヴィセーリスのように、ターガリエンの血筋であってもドラゴンではないものは大勢いる……、というより、それが大多数であって、むしろ、ドラゴンに生まれつく者は希少な存在であるようだ。
だから、ジョン・スノウがドラゴンではなくとも、彼にターガリエンの血が入っていることはあり得よう。
しかし、「濃い灰色」の目をしたジョン・スノウは、ターガリエンの血を持つ者ではないように、わたしには思われる。
* * *
ジョン・スノウの目の色は「濃い灰色」だが、髪の色は……わからない。
ジョン・スノウの父親がロバート・バラシオンだとすると、ジョン・スノウの髪の色は黒くなくてはならないはずだが、その髪の色を作者は巧妙に隠している。
そしてそのことが、ジョン・スノウがロバート・バラシオンの子であることの証であるようにわたしには思われる。
* * *
ロバートはあのような姿でこの小説に登場したために、ろくでもない男であるようにも見えてしまう。
しかし若い頃のロバートは、その若さに任せて女を作ることはあっても、エダードか最愛の妹リアナに「立派で誠実な男であり、心から彼女を愛するだろう」と保証することのできる男でもあったのだ。
そしてロバートは最後までリアナを愛し、悼んでいた。
エダードはロバートを支持し、最後まで彼を支えようとしていた。
ロバートのリアナへの愛は本物だったのだろう。
ロバートは結局リアナの死を乗り越えることができず、そのため、この小説への登場時点で、彼はあのような姿になりはててしまっていたのではなかろうか。
対して、ひどく理想的な形で、しかし、伝聞によってしか語られることのないレイガーの実像はどのようなものであったのか……。
ロバートのレイガーへの憎悪が正統なものであるのなら、レイガーはどのような非道をリアナに対して行なったのだろうと、わたしは考えてしまうのだ。
* * *
リアナの最後の言葉は、「約束して、ネッド」。
リアナはエダードに何を約束させたのか……。
それは、彼女の息子の存在を世に隠し通すことではなかったのか。
玉座の争いから息子を遠ざけて、平穏な人生を送らせること……、それが彼女の最後の望みではなかったのか。
だからエダードは、ロバートが鉄の玉座についてなお、ジョン・スノウが何者であるかを隠し通さなければならなかったのではないか。
だからエダードは、キャトリンの心を苛み、夫婦の関係に亀裂を入れることになってもなお、それを隠し通さなければならなかったのではないか。
* * *
ただ、結婚の前にリアナがロバートに身体を許したかどうかはわからない。
むしろ、レイガーの方が彼女を犯すという形でリアナと身体の関係を持った可能性は高いのだ。
だから、ターガリエンの血を憎悪するロバートの手からジョン・スノウを守るために、エダードは彼の素性を隠していたのだと考えることもできる。
しかし、ロバートが本当にエダードの考えているような男であるのなら、ジョン・スノウがたとえレイガーの子であったとしても、ロバートがリアナの子を殺すことはなかったのではないか……。
* * *
未だ書かれざる物語がなにを語ろうとしているかを考えるのはひどく楽しいけれどもどかしい。
わたしが生きている間に物語が終わってくれるといいんだけどなぁ……。
(付記 : 2013年12月19日)
うっかりしていました。
ロバート王にはターガリエンの血が入っているので、ジョン・スノウがロバート・バラシオンの子であるとしても、彼にはどのみちターガリエンの血が入っていることにはなるのでありました(^^ゞ