コラム

YUWBOKU-MINZOKU NO CHIE TORUKO NO KOTOWAZA by Ooshima Naomasa

遊牧民族の知恵 トルコの諺

大島直政


明日できることは今日するな

遊牧民族であるトルコ人には、農耕民族である日本人の常識とは随分と対象的な常識があり、そこには、その世界なりの合理的な理由が存在するわけで──という、一種の、これも“THE OTHER WORLD”なんでしょうか。
でもこれは、私たちの地球に現実に存在するもう一つの世界です。

「明日できることを今日するな」というのは、怠け者の身には大歓迎の諺なのですが、 実際にはそんな呑気なものではなくて、これもやはり、砂漠の厳しい現実のなかから生まれた諺です。
つまり、「どうせ、こんな土地にいても家畜は肥えないから、明日は家畜を連れて出発しよう」 と考えるトルコ人にとって、「不毛の土地に留まって、いかに努力しても空しいから」、というわけです。
もっとも、“羮(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く”に対するに 「ミルクで口をやけどした者は、ヨーグルトを吹き吹き食べる」、“十人十色”に対するに 「ヨーグルトの食べ方は人さまざま」など、表現は違っても同じ考えを表わす諺も結構あって、何となく親近感を覚えてしまうところです。


『遊牧民族の知恵 トルコの諺』  YUWBOKU-MINZOKU NO CHIE TORUKO NO KOTOWAZA by Ooshima Naomasa  大島直政 著  1979年6月20日  講談社現代新書

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