農耕作物の、それも主に、主食になる植物の起源と伝播の過程を明らかにしようとする書です。
人間が食べるということのために何をなしてきたか、歴史以前の人々の努力と創意工夫を考えると、じんわりとした感動が身の内に広がります。
植物を栽培するということは、ただ、野生のものを取ってきて、これをまとめて植えてやるということではありません。
栽培された植物は、その生態までも野生のものとは違ってしまっているのです。
例えば、野生の植物では、種は自然に頒布されるよう、熟したら落ちてしまいます。
けれどもこれでは、農耕のためには不都合です。
そのため、栽培されている植物は、熟しても実の落ちない、茎につけたまま刈り取って収穫ができる植物ばかりなのです。
そしてまた、東南アジアに物凄くたくさんの種類をもっているタロ芋やバナナの類。
毒のあるものをいかにして毒抜きをして食するか──。
科学的知識も技術の裏づけも持たない遥かな昔、人はどうやってこれらを選び、改良してきたのでしょう。
現在とはまったく違ったタイムスケールのなかで行われたであろう壮大なバイオテクノロジーの実験に思いを馳せて、想像の翼が広がります。