第5章 神々の物語 神話の神々

RIGVEDA

リグ・ヴェーダ讃歌


美男美女揃いの豪壮華麗な神様たち

最大級の賛辞を捧げられる美々しい神々

『リグ・ヴェーダ讃歌』の神々は、美男美女ぞろい。
それぞれに考え得るかぎりの最上級の賛辞を捧げられています。
豪壮華麗、素敵なアニメのキャラクター表を見ている感じてす。

輝く白い衣を纏(まと)い、きらめいて黄金色に映え、太陽の光で化粧して、みめ麗しくうら若い美女の姿をした暁紅の女神ウシャス。
星をちりばめて大いに身を飾り、夜の安全を守る、ウシャスの姉妹、夜の女神ラートリー。
七頭の栗毛の駒を繋(つな)いだ車を御し、炎の髪をして、火のごとく燃え盛る、無限に輝く太陽神スーリア。
真珠で飾り、いっさいの色相を持つ黄金の車に、輝く二頭の栗毛の馬を繋いで、強い力と黄金の手を持つ、太陽神にして激励者サヴィトリ。
太陽の使者であり、道祖神、牧畜神であるプーシャン。
世界を三歩で踏みまたぐ光明神ヴィシュヌ。
怒れば蛇のごとく恐ろしい美しき神々。胸に黄金の装飾を連ね、光り眩(まばゆ)い装具をもって身を飾る暴風雨神マルト神群。
弓箭(きゅうせん)を帯び、輝く黄金をもって身を飾る、強豪、赤褐のマルト神群の父ルドラ。
黄金の姿形、黄金の外貌、水の子アパーム・ナパート。
金色に輝く車を御し、金色に輝き、常に黄金色を帯びて、威力に覆われ激烈にしていとも華麗なる火神アグニ。
電撃(ヴァジュラ)を手に持つ、魔族の殺戮者インドラ。
鷲に引かせた車を駆り、ソーマと蜜を好み、人々に滋養と医薬をもたらすアシュヴィン双神……。


力強く躍動するリズム感と勇壮な語り口

シヴァ・イラスト『リグ・ヴェーダ讃歌』は、紀元前1200年前後にインドで成立した神々に捧げる讃歌で、その後のインド文化の根幹を成すものとされています。
内容は、ひたすら神々を誉め称(たた)え、その功徳に預かろうとするものです。
もろもろの大自然の事物から、人間の手になる器物・器具、さらには言語、感情、契約といった抽象的な概念にいたるまで、何らかの神秘が内在すると考えられるすべてが擬人化され、神格化されて歌われます。
力強く躍動するリズム感と勇壮な語り口は、読んでいて、非常に心の高揚を覚える楽しいものになっています。

インドに進出したアーリア民族は、こうした神々を押し立てて、誇らしい思いに満ちあふれてかの地を蹂躙(じゅうりん)し、占領していったのでしょう。
インドの現実を考えれば、さまざまに考えさせられるものはありますが、インドの膨大な神話や哲学には、なぜか魅きつけられるものがあります。
私たちの日本文化のなかに深く根づいてしまった仏教もまた、もとはといえば、こうした神々を戴くインドの新興宗教として発生したものです。
そういうところに、私たちがあまり違和感なくインドを受け入れる下地があるのかもしれません。

『リグ・ヴェーダ讃歌』に出てくるインドラは仏教の帝釈天であり、サラスヴァティーは弁才天、ルドラは後(のち)にシヴァ神となり、私たちの知っている大自在天や不動明王になりました。
死の道の発見者、死界の王ヤマは地獄の閻魔様(えんまさま)です。

人々の生活に基づく興味深い歌

『リグ・ヴェーダ讃歌』のなかに収められているのは、高みにある神々の歌ばかりではありません。
「詞歌一束」として訳者によってまとめられたもののなかには、 「賭博者の歌」「渡世の歌」など、人々の生活に基づく興味深い歌がたくさんあります。

「賭博者の歌」は、賭博の魅力に取りつかれて家庭を崩壊させてしまった男がそのことを後悔し、賭博の魔力が他のものに移って、自分を解放してくれることを祈る歌です。

「渡世の歌」は、神酒ソーマを称(たた)える形をとって、さまざまな職業が結局は富を求める手段であるとを皮肉り、ユーモアたっぷりに歌います。


『リグ・ヴェーダ讃歌』  RIGVEDA, Translated by Tsuji Naoshirou  辻直四郎 訳  1970年5月16日  岩波文庫

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