第5章 神々の物語 神話の神々

METAMORPHOSES by Ovidius

変身物語

オウイディウス


現代的なおもしろさに溢れた
ギリシア・ローマ神話の原典

あらゆる人間関係の集大成

美少年と愛を語らうアポロン。
女として生まれながら男として育てられたため、同性の美しいイアンテに恋をして、結局男に変わって彼女と添い遂げたイピス。
両性具有のヘルム=アプロディトス。羽のあるギリシア
自分の姿に見とれて水仙に変わってしまったナルキッソス。
交尾する二匹の蛇を棒で打ったため、男から女に変わって七年間を過ごし、再び男に戻って、両性の喜びを知ったテイレシアス。
象牙の人形に恋をしたピュグマリオン。

ギリシア・ローマ神話というのは、人間関係のありとあらゆる集大成の感があります。
愛の形だけを取ってみても、浮気はもちろん、ホモセクシュアメあり、レズビアンあり、近親相姦、獣姦と、あらゆる形が揃っていて、ほとんどこれ以上は考えられないほどに多彩です。
だから間違っても、ギリシア・ローマ神話を子供向きの簡略版なんかで読んではいけません。

主神のユピテル(ギリシア神話のゼウス)からして、両刀使いの好色な神様なのです。
ユピテルは、女神ディアナに化けてカリストを、牡牛に化けてエウロペを、白鳥に化けてレダを愛したと思えば、鷲に化けて美少年ガニュメデスを拐(さら)います。
こうしたユピテルの行状は神話のなかに無数に点在していて、人間界にも神界にも、ユピテルのこどもや子孫が溢れかえっているというわけです。
おかげでユピテルの妻のユノー(ギリシア神話のヘラ)は気の休まる暇がなく、彼女のお話といえば、ほとんどが、ユピテルの相手に嫉妬して残酷な報復を加えるという、はなはだ気の毒な役まわりの女神様になってしまっています。

ギリシア・ローマ神話は、こうした奔放闊達(ほんぼうかったつ)な人間くさい神様たちと、妖精や人間たちの膨大な量の物語群なのです。


原典のこの作品が一番おもしろい

少年ケンタウロス・イラスト『変身物語』は、紀元1世紀の始め頃、ローマの詩人オウイディウスによって書かれたギリシア・ローマ神話の古典です。
この書以後、さまざまなギリシア・ローマ神話が書かれていますが、それらの作品より、原点とも言うべきこの作品のほうがはるかにおもしろく読めておすすめです。
ユーモアを交えて緩急自在に語られていく物語はたいへん読みやすく、とてもそんなに古い時代の作品であるとは思われません。
オウイディウスの巧みな筆で描かれる心理描写も現代的で、登場人物の心のありようも現代人と大差なく、すんなりと納得して読んでいくことができます。
現代のファンタジー作品のなかに混ざって置かれていても違和感なく読めてしまう、そういう、取りつきやすい作品と言えるでしょう。
ギリシア・ローマ神話の、主に変身譚を扱ったものですが、この本一つで、ギリシア・ローマの神話と伝説のほとんどのお話を知ることができます。

有名な話の知らなかった真実

有名な話も、きちんと読んでみると意外な事実を見つけることができて興味深いものがあります。

死んでしまった妻エウリュディケを生き返らせるため冥界へ下り、後ろを振り返ったために妻を生き返らせることに失敗したオルペウス。彼は、その後、傷心から女嫌いになり、少年愛の推奨者となって、そのため女たちに、よってたかって殺されてしまいます。

アリアドネの助けを得て糸玉を持って迷宮に入り、怪物ミノタウロスを退治した英雄テセウスは、非道にも、大恩人のアリアドネをナクソスの島に置き去りにしてしまいます。
このアリアドネに愛と救いの手を差しのべたのが、かの酒神バッコスです。

こんな具合に、ほかの本でギリシア・ローマ神話を読んだことのある人も、『変身物語』を読んで新しい発見ができるかもしれません。
オウイディウス著田中秀央・前田敬作訳


『変身物語(全2巻)』  オウイディウス 著  METAMORPHOSES by Ovidius, Translated by Nakamura Zenya  中村善也 訳  1981年9月16日・1984年2月16日  岩波文庫
『転身物語』  オウィディウス 著  METAMORPHOSES by Ovidius, Translated by Tanaka Hidenaka / Maeda Keisaku  田中秀央・前田敬作 訳  1966年6月25日 人文書院

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