《グイン・サーガ》は、中原(ちゅうげん)と呼ばれる架空の世界を舞台にした大長編のファンタジーである。
物語は、この中原で、いくつかの国がその存亡をかけて互いにあい争い、あるいは結び、興亡を繰り広げるなかで、そこに生きるさまざまな人物の人間模様を描いていく。
戦いはおおむね剣と力によって行われ、銃器のたぐいは登場しない。
科学文明の世界ではないのである。
しかし、ところどころに、使用目的も使用法もわからない高度に発達した機械の類がかいまみえ、この世界がどうやって生い立ってきたかの謎を提供してくれる。
魔術を操る魔道師と呼ばれる人々も存在する。
辺境の地ノスフェラスには、さまざまな化けもの、怪物、そして異形の人類──、人類もどきが生息している。
その名がシリーズの題名にもなっているグインは、豹の頭を持った巨大な体躯の戦士である。
彼は、記憶もなく来歴もわからないまま、ある日突然この中原の世界に姿を現わした。
グインは、国を失って放浪するパロの王女リンダと王子レムスを助けたり、ケイロニアで将軍になったりと、この世界で大冒険を繰り広げていくのだが、なかなか一つところには落ち着かない。
彼の生き方の根底には、謎に満ちた自分の正体を解き明かしたいという強い思いがあるのである。
多分、グインの来歴の秘密が明かされるとき、この世界の秘密もまた明らかになって、物語も結末を迎えるのだろう。
もっとも、《グイン・サーガ》は、必ずしも彼一人が主人公というわけではなく、何人かの主要な登場人物がそれぞれの場面で主役を務めて、おのおのがその心情を吐露しながら、話は進んでいくのである。
登場人物たちの饒舌の内容に共感できる読者には無上の喜び、共感できない読者にはまったく無縁の代物。
《グイン・サーガ》というのはそういう小説です。
キャラクターの誰かを好きになれるかなれないか、この小説をおもしろいと思えるかどうかは、そこにかかっているようです。
物語世界に本気になってつき合って、登場人物が好きだ嫌いだとやりながら、かれらの運命にはらはらどきどきしているようになったら、あなたは立派に《グイン・サーガ》のマニアです。
ただし、どちらにしても、最初のほうはあまりおもしろくないかもしれません。
魅力の因(もと)の登場人物たちが、まだもう一つぎこちないのです。
というわけで、私好みの印象的なキャラクターのほんの一部をミーハーしながら紹介してみましょう。
グインは、強くて思慮深くて性格も良いと、ほとんど万能の存在で、何をやっても安心して見ていられる人物です。
けれども彼は、ちょっとまじめすぎておもしろみに欠けるので、ミーハーの対象にはなりにくいかもしれません。
ナリスとマリウスは異母兄弟で、中原のもっとも古い王国であるパロの王家の王子様たちです。
ナリスは超弩級の美形で頭も切れる、パロの国の超アイドルなのですが、愛のない政略結婚によって生まれたため両親の愛を知らず、愛情に飢えている寂しがり屋です。
極端に誇り高い上、いろいろとひねくれてしまっていたり、王位継承権第二位という面倒な立場にあったりで、自分を隠すことに慣れてしまって、内心をさらけ出すことができません。
彼の悲劇はどうやらそのあたりにありそうです。
マリウスのほうは、幼い頃は両親の愛に包まれて育ったのですが、七才で孤児となり、母親の身分が低かったため王宮で疎外されて、これもまた愛情に飢えています。
その愛情をナリスに求めてしまったのが、彼の間違いのもとでした。
王宮の陰湿な陰謀劇には馴染まない、優しい心根の持ち主です。
レムスは復活したパロの王様です。
一時、パロがモンゴールに占領されて、グインたちとノスフェラスをさまよっていたとき、魔道師カル・モルの霊に取り憑かれ、以来、気の弱いおとなしい少年は、陰湿で狷介な少年に変わってしまいました。
で、私は、この陰湿で狷介なレムス君が大好きなのです。
男勝りで勇敢な少女、と、平和な頃のパロで評されていた双子の姉のリンダに押さえつけられていた彼が、ようやく自分の本領を発揮し始めたという感じで、彼がどう成長していくか、大変期待しています。
どこの馬の骨ともわからないならず者の出で、王になることを夢見て、すでに、半分かた夢を果たしつつあるイシュトヴァーン。
自分の吹いた法螺を自分で信じてしまって、結局、何が本当で何が嘘だかわからなくなってしまうところが彼の悲劇です。
あんまり深く考えることが彼にはできないようです。
結構信じやすい乗りやすい性格で、その場その場で流されていって、後(あと)には、彼の気紛れの迷惑を被(こうむ)ったものの屍(しかばね)が散乱するということになってしまいます。
と、まあ、ここに書いたようなことを、今の時点で私は思っているのですが、この小説は常に進行中なわけで、次の巻が出たときは、またこうした見方は変わっていくことでしょう。
わわわっ!! 最新刊では、またまた新たな展開があったようです。
作者がどこまでお話を引っ張っていってくれるのか、そして、どこまでこちらがついていけるのか、とても楽しみなところです。