第3章 変形する過去・未来 変形する過去〈外国編〉

KANE by Karl Edward Wagner

ケイン・サーガ

カール・エドワード・ワグナー


悪逆非道な不老不死の戦士

不老不死の呪いを受けた邪悪な戦士

凄まじい力を秘めた巨大な体駆。
程よい長さに切り揃えられた淡い赤毛と短い顎ひげ。
あまりに無骨で端正とは言い難い粗削りな顔立ち。
気のふれた殺人鬼の瘴気(しょうき)を湛える青く燃える瞳。
野蛮人の外見を裏切る、内に備わる卓抜な知性と教養。
長い生の間に貯えた魔術の知識。
邪悪で卑劣、狡猾な戦士であり、魔術師でもある男……。

人類発祥のときこの世に生を享(う)け、狂った創造主に反逆したため不老不死の呪いを受けたケインの行くところ、血なまぐさい戦乱の嵐が吹き荒れる。

大陸で働いた悪事のために莫大な賞金を懸けられて、食屍鬼(グール)の跳梁する古代の納骨所に隠れ潜むケイン。
彼を、ペリンの女王エフレルが招聘(しょうへい)した。
ケインの力をみずからの目的に役立てるためである。
島嶼(とうしょ)地帯に覇を唱えるソブレス帝国のもとの皇妃エフレルは、帝国を自らの手にいれるべく策謀するも事敗れ、惨(むご)たらしい処刑によっておぞましい人間の残骸になり果ててペリンへ帰り、恐ろしい復讐を心に誓って戦力を貯えていたのである。

──『第1巻・闇がつむぐあまたの影』

悪人ばかりの物語

登場人物のほとんどが悪人で、健全な精神の持ち主などまったく登場しない物語です。
大悪人も小悪人も、自分の思うところへ状況をもっていくために、他者に対する配慮など微塵もなく、自分に正直に真っ直に突き進んでいく様がかえって爽快です。
彼らにとって他者というのは、潜在的に自分の敵になる可能性を持った、利用できる間だけ利用するものでしかありません。
そのため、裏切りなどは怒ったり驚いたりするには及ばない日常茶飯事なのです。
この悪人たちのなかにあって、二人だけ、悪とは無縁のキャラクターが登場して、悲劇のヒーローとヒロインを演じます。
ところがこれが、非情な権謀術数が当り前の世界では、単に甘やかされたマヌケにしか見えず、ちっとも同情できません。
悪の女妖術師エフレルが言ってのけた、「愛らしいム・コリが情を寄せるのは、かわいらしいものばかり。もがき苦しむ蝶を蜘蛛の巣から救ったとき、自分が飢えさせた蜘蛛のために涙したことがあるか?」という言葉が、快く響きます。

良心など薬にしたくも持ちあわせておらず、己のやっている悪事に悩むなどという軟弱にも無縁な登場人物たち。
そのなかで、彼らに輪をかけて凄まじい主人公ケインの悪辣(あくらせつ)ぶりがさらに際だって魅力です。

物語は裏切りに裏切りを重ねて、前人類の時代のいにしえの種族を巻き込んで、二転三転して語られていきます。
ただし、正義の勝利などといった結末は用意されませんので、期待しないように。
これは胸のすくような悪の物語なのです。

期待されるこれからの翻訳

このシリーズ、書かれたのは1970年代なのですが、現時点では翻訳が始まったばかりなので、全体を見通してのご紹介というわけにはいかないのが非常に心残りです。
ただ、それほど大きなシリーズではないらしいので、私たちの前にその全貌を現すのもそんなに先のことではないでしょう。

──と書いたのですが、続編、いつになるのでしょう?


《ケイン・サーガ》  KANE by Karl Edward Wagner Translated by Nakamura Tooru  カール・エドワード・ワグナー 著  中村 融 訳  創元文庫
『第1巻・闇がつむぐあまたの影』  DARKNESS WEAVES  1991年10月30日

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