「ああ、いそがしい、いそがしい。ねこの手もかりたいぐらいだわ」
玄関のチャイムが鳴ったのは、雨上がりで大忙しのおばさんがひとりごとを言ったときでした。
ドアを開けるとそこには、風呂敷づつみを持ったしましまねこが立っていました。
しましまねこはおばさんのひとりごとを聞いてやってきたのです。
「わたし、おてつだいさんです。きょうから、ここのおうちではたらかせていただきます。どうぞよろしく」
身よりのない、一人ぼっちのねこさんです。
風呂敷づつみからエプロンを取り出してきりっと締めて、「しつれいいたします」。
日曜日ごとに煮干し一袋の約束でおばさんのうちのお手伝いさんになったねこさんは、一生懸命、おばさんを助けて働きます。
ねこさんは、お洗濯をしようとすると、洗濯機のなかでぐるぐるまわるあぶくに目がまわりそう。
手がびしょびしょになるのも困ります。
洗濯物を干そうとすると、靴下をかたっぽと、ハンカチ二枚と、シャツとタオルを落としてしまって、もう一度ゆすがなければなりません。
電気掃除機がうなる音に驚いたねこさんは、きゃっと叫んで逃げ出してしまいます。
はたきをかければ、障子に幾つも穴があいてしまいます。
お布団を干すと、広げたお布団のまんなかで眠くなってしまいます。
ねこさんが一生懸命用意してくれたお昼御飯のおかずのしゃけは、いつもの半分の大きさしかありません。
ねこさんが味見をしているうちに小さくなってしまったのです。
後片付けではお皿を一枚割ってしまいました。
一生懸命のねこさんですがどじはかり。
ねこさんは、おばさんのうちのお手伝いさんとして、ちゃんとやっていけるのでしょうか。
「だって……わたし、ねこだし、手も小さいし、頭もよくないから……。」
ねこさんの大失敗の言い訳の言葉です。
このセリフがとってもかわいくて気に入ってしまった私は、何かへまをやらかすたびに、この言葉を小さな声で言いたくなってしまいます。
《おてつだいねこ》のお話は、イラストがまた、とても素敵。
エプロンをかけるねこさん、お庭をほうきで掃くねこさん、お魚を焼くねこさん、お布団の上で幸せそうに丸くなるねこさん……。
ねこさんのかわいらしさ、いじらしさが存分に表現されたイラストは、お話にぴったりあっていて、本文をいっそう引き立てています。
竹下文子と鈴木まもるのコンビは、他にも何冊かの創作童話を世に出していて、《おてつだいねこ》のシリーズも、幼児向けの絵本を含めて何冊かが刊行されています。
小学館版は絶版となり、加筆訂正の上で現在は金の星社から刊行されているようです。(小学館版『おてつだいねこのおつかい』以降は現物を確認していないので不確実です。ごめんなさいm(__)m)