あたり一面、春の気配がいっぱい漂っています。
大掃除をしていたモグラは、とうとう我慢ができなくなってしまいました。
何もかもほっぽりだして穴から飛び出したモグラは、ふらふらと浮かれ歩きます。
「ネギと煮ちゃうぞ。ネギと煮ちゃうぞ」とウサギをからかって、
「ほかのものたちがいそがしく働いているのに、じぶんだけ、のらくらしているのは、なんてたのしいことだろうと思」いながら……。
そうやって川辺まできたモグラは、生まれて始めてみる川にすっかり夢中になって、そこに座って、賑やかな川のお話に耳を傾けました。
水際の土手には、住むのにちょうど良い穴があります。
穴を見つめているうちに、彼は穴の奥にキラキラ光る小さなものを見つけました。
それは、この穴に住んでいる川ネズミの目だったのです。
川ネズミに誘われて、これも生まれて初めてボートに乗せてもらったモグラは、川ネズミに聞いた川辺の楽しい暮らしがすっかり気にいって、仲良くなった川ネズミの家に暮らすことになりました。
好奇心でいっぱいのモグラは、小さな失敗や大きな失敗をしながら、川辺でたくさんの友達を作って楽しく暮らします。
川辺の楽しい仲間たちは、少々の失敗や迷惑は笑い飛ばしてしまえる余裕と、相手を思いやる繊細な優しさを持っていました。
意地悪なウサギの住んでいる恐ろしい冬の森では、人づき合いの嫌いな、けれども、何かことが起こったときにはとても頼りになるアナグマと友達になります。
水のなかなら思うがままのカワウソは、川辺で子供たちを育てています。
迷子になってしまったカワウソの子供、冒険好きなポートリ坊を捜して、モグラと川ネズミは、川辺の動物たちを人知れず守ってくれている優しい牧神パンに出会います。
そしてもう一人(?)、忘れてはならない重要な川辺の仲間は、親から受け継いだ財産で贅沢に暮らしているヒキガエル屋敷のお大尽です。
このヒキガエルは、何かといえば川辺の動物たちの話題にのぼる、この界隈きっての困り者なのです。
自分に都合のいいようにすべてを考えることのできる、なんとも幸せな奴なのですが、そのために周りの連中の迷惑すること限りありません。
おまけに彼には、大抵のことを思い通りにできるだけの財力があるときているのでなおさら始末が悪いのです。
そして、彼のためにいつもひどい目に会っているにもかかわらず、感謝もされないのに彼のことを親身になって考え骨折る川辺の仲間たち……。
まったく、友人に恵まれた羨ましい奴でもあります。
物語の後半は、自動車を盗んだヒキガエルがお巡りさんに捕まって裁判にかけられ、牢屋に入れられてひどい目に合うお話です。
この冒険で、ヒキガエルの性格はすっかり良いほうへと変わってしまいました、ということになっているのですが、はてさて、どうも全然変わっていないような気が……。
美しくのどかな川辺の四季の情景のなかで暮らす、人のよい動物たちの楽しい物語です。
副題は“ヒキガエルの冒険”となっていますが、話は特に一貫して一人(一匹?)の主人公によって進められていくというわけではありません。
モグラと川ネズミ、そして、ヒキガエルが、その時々によって主人公を務めながら、ちょっとした冒険を含んだいくつかの出来事が語られます。
動物も人間もみんな喋ることができて分け隔てなくつき合っている、そんな不思議な世界です。
気怠(けだる)い一日を何もしないで寝っころがってゆっくりと過ごしたい。
そんなのんびりした川辺での情景が、まず素敵です。
これは、子供時代に遊んだどこかを思い起こさせてくれる、なんとなく懐かしい匂いを持った、読んでいて嬉しくなってくる物語なのです。
そしてまた、そうした自然のなかに今現在を過ごしている読者には、自分の場所をそのまま異界へと変えて、ファンタジーの世界に遊べる楽しい夢をもたらしてくれることでしょう。