第2章 異形の隣人たち 動物たちのファンタジー

DOCTOR DOLITTLE by Hugh Lofting

ドリトル先生物語

ヒュー・ロフティング


動物とお話のできるドリトル先生と
愉快な動物家族

ドリトル先生、我が家へ帰る

ドリトル先生とその一行が、長い長い旅から、沼の辺(ほとり)のパドルビーにある懐かしの我が家へ帰ってきました。
ドリトル先生は世界中でただ一人、動物の言葉を話すことができる動物のお医者さんです。
だから動物たちは、具合が悪くなると、他のどのお医者さんでもなく、ドリトル先生のところへやってくるのです。

ドリトル先生の家族は動物たちを中心にしたとても楽しいメンバーです。
先生の助手で、先生に動物の言葉を習っている靴屋の息子トーマス・スタビンス──通称トミー。
先生に最初に動物の言葉を教えた年寄りオウムのポリネシア。
先生の家の家政婦さんで、きれい好きなアヒルのダブダブ。
鼻の確かな雑種犬、ジップ。
食いしん坊の子ぶたのガブガブ。
偉大な数学者、フクロのトートー。
知りたがり屋の白ネズミ。
猿のチーチー。
アフリカの黒人王国から、オックスフォード大学で勉強するためイギリスに来ている王子バンポ──。
そして、先生の家族ではありませんが、先生の家にしょっちゅう出入りしている、猫肉屋のマシュー・マグ。
それぞれに個性的な連中ばかりです。

動物のための動物園

帰ってきたばかりのドリトル先生のところには、たくさんの動物の患者さんたちがやってきて、先生はたいそう忙しい思いをしなければなりませんでした。
おまけにお気に入りの庭は、ほったらかしにしておいたためにひどいありさまです。
先生は、猿のチーチーや小さな動物たち、なかでもモグラたちの助けを借りて庭の手入れをしなければなりませんでした。
そうやって、旅をするために動物たちを帰してしまってからっぽになっている動物園を見ているうちに、先生はここにイギリスの動物たちを集めた動物園を作ることを思いつきます。
もともとここは、外国産の珍しい動物たちを飼っていた動物園でした。

先生の動物園は、人に動物たちを見せるための動物園ではありません。
先生と一緒に暮らしたがっている動物たちを集めて、理想的な動物の町を作ろうというのです。
家の掛け金は内側についていて、動物たちは好きなときに出入りができます。
「ウサギ・アパート」「雑種犬ホーム」「ネズミ・クラブ」「アナグマ宿屋」「キツネ集会所」「リス・ホテル」
そして、動物たちが動物のお客さんに品物を売るお店。
争いやトラブルを解決する動物警察。
動物の言葉で書いた本が収めてある動物図書館……。
アイディアは次々に広がります。

──「第5巻・ドリトル先生の動物園」

ドリトル先生の楽しい家族

楽しい楽しいお話の本です。
動物たちとのドリトル先生の生活は、細かいところまでリアリティにあふれていて、まさにそれが真実であるかのように読者に迫ります。
個性的な動物たちと、さまざまにちりばめられた楽しいアイディアは、読者を引きつけて離しません。
作者のロフティング本人の手になる暖かくてユーモアたっぷりな挿し絵が物語に大きな魅力を添えています。

このお話の一番気持ちの良いところは、ドリトル先生がすべての動物たちとまったく対等につき合っているところかもしれません。
ドリトル先生は“人間は万物の霊長だ”などと威張って、動物たちの上に立とうとはせず、それぞれの動物の優れているところを素直に尊重し、謙虚に彼らの言葉に耳を傾けます。
こうした態度は、先生が人間たちとつき合うときも変わりません。
相手が王様でも、乞食でも、先生の態度はまったく同じです。
裸の原住民に対しても、イギリスの偉ぶった貴族に対しても、先生は同じ態度で対します。

楽天的で暖かく、伸びやかな性格のドリトル先生。
先生を中心に、いろいろな性格のたくさんの動物たちと仲良く暮らす先生の毎日は、理想的な家庭生活と言えるでしょう。
だから読者は、語り手のトミーに感情移入して、ドリトル先生の家庭生活に参加することが至極嬉しいのです。
家政婦さんのダブダブの小言に身をすくめ、動物たちの悩みを解決しようと一生懸命なドリトル先生は、どこにでもいる普通の優しいお父さんのようで親しみが持てます。
しかも、先生は優しいだけではなく、理不尽なことには頑として立ち向かい、動物たちや困っている弱い人たちを守ってくれる、とても頼もしい人物でもあるのです。

数々の温かくて楽しいお話

《ドリトル先生物語》は全部で十二巻が刊行されています。
そのなかでも特にお薦めの何冊かを簡単に紹介してみましょう。

「ドリトル先生アフリカ行き」「ドリトル先生航海記」は、動物たちを連れての、ドリトル先生の楽しい異国での冒険の物語。
先生はおんぼろ船を買い込んで、いとも気軽に世界の果てへの冒険旅行に出かけていくのです。
「ドリトル先生の郵便局」は、ちゃんとした郵便制度がないために困っているアフリカのファンティポ王国のために、先生が鳥たちの協力を得て作り上げる世界一早くて正確な郵便事業の物語。
「ドリトル先生のサーカス」「ドリトル先生のキャラバン」は、借金を返すお金を作るため、アフリカから連れてきた両頭動物のオシツオサレツを連れて、先生と動物たちがサーカスに加わって旅をする話。
ドリトル先生が動物たちと話し合って作り上げる、動物たちが主体のさまざまな出し物のアイディアが楽しい物語です。
「ドリトル先生と秘密の湖」は、不老長寿のなぞを探るため、ノアの箱船の時代から生きているカメのドロンコをアフリカに訪ね、ドロンコの目から見たノアの洪水の話を聞く物語。
箱船に乗せてもらえなかった奴隷の少年エバーと少女ガザを助けて、ドロンコとその妻ベリンダの大冒険が繰り広げられます。
二人の人間に寄せるカメたちの深い愛情が感動的です。


《ドリトル先生物語》  DOCTOR DOLITTLE by Hugh Lofting, Translated by Ibuse Masuji  ヒュー・ロフティング 著  井伏鱒二 訳  岩波少年文庫(愛蔵版もあり)
『第1巻・ドリトル先生アフリカ行き』 THE STORY OF DOCTOR DOLITTLE  1951年6月25日
『第2巻・ドリトル先生航海記』 THE VOYAGES OF DOCTOR DOLITTLE  1960年9月20日
『第3巻・ドリトル先生の郵便局』 DOCTOR DOLITTLE'S POST OFFICE  1952年6月15日
『第4巻・ドリトル先生のサーカス』 DOCTOR DOLITTLE'S CIRCUS  1952年1月15日
『第5巻・ドリトル先生の動物園』 DOCTOR DOLITTLE'S ZOO  1972年2月27日
『第6巻・ドリトル先生のキャラバン』 DOCTOR DOLITTLE'S CARAVAN  1953年6月15日
『第7巻・ドリトル先生と月からの使い』 DOCTOR DOLITTLE'S GARDEN  1979年9月
『第8巻・ドリトル先生月へ行く』 DOCTOR DOLITTLE IN THE MOON  1979年9月
『第9巻・ドリトル先生月から帰る』 DOCTOR DOLITTLE'S RETURN  1979年9月
『第10巻・ドリトル先生と秘密の湖(全2巻)』 DOCTOR DOLITTLE AND THE SECRET LAKE  1979年10月23日
『第11巻・ドリトル先生と緑のカナリア』 DOCTOR DOLITTLE AND THE GREEN CANARY  1979年10月23日
『第12巻・ドリトル先生の楽しい家』 DOCTOR DOLITTLE'S PUDDLEBY ADVENTURES  1979年10月23日
『ガブガブの本 『ドリトル先生』番外篇』  GUB-GUB'S BOOK by Hugh Lofting, Translated by Nanjou Takenori  南條武則 訳  2002年11月21日  国書刊行会

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