二十世紀の終わりを数年後に控えた日本。
両親のいない竜堂家には、長男の始(はじめ)を家長として、四人の兄弟が暮らしていた。
彼らはそれぞれタイプの異なる美形ぞろいの兄弟である。
名前は上から順に、始、続(つづく)、終(おわる)、余(あまる)……。
祖父がつけた彼らの名前はほとんど冗談である。
そして、始に心を寄せている従妹の茉理(まつり)が、時々彼らの食事の世話をしにきてくれる。
一見普通の兄弟だが、あまりにまっとうな考え方をするために、ちょっと過激な彼らであった。
長いものには巻かれろ式の考えかたは毫(ごう)も持っていないため、もう一つ世間との折り合いがよくないのである。
そのため、彼らの祖父の創立した共和学院は、腹黒い俗物である茉理の父に乗っ取られようとしている。
もっとも、彼らは学校の一つや二つにそんなに執着しているわけではないのだが。
実は、竜堂四兄弟は皆、人間離れした不思議な力を秘めている身であった。
自動車より速くローラースケートで走ったり、片手を軽く差し出すだけで、大の男を十メートルも突き飛ばしてしまうのも朝飯前。
もちろん、戦えば、これは、武道家の心身の修練などナンセンスと思わせてしまうほどのレベルである。
末弟の余は、夢遊状態で空中浮揚をする癖さえ持っている。
彼らの能力を狙って、まず、日本を裏から支配する黒幕、船津老人の、そして、世界を支配する四人姉妹(フォー・シスターズ)の暗躍が始まった。
彼らの陰謀によって、国民の敵、世界の敵、人類の敵の烙印を押され、警察からも、自衛隊からも、米軍からも追われる身になる竜堂四兄弟。
銀行のキャッシュカードも使えなくなってしまう。
戦車が、戦闘ヘリが、戦闘機が、そして、核弾頭ミサイルまでが彼らを襲う。
しかし、そのくらいのことでへこたれる四兄弟ではない。
なにしろ彼らの本体は、それぞれ強大な力を秘めた竜なのだ。
追い詰められて変身した彼らにかなうものなどありはしない。
彼らの行くところ、いたるところに破壊の嵐が吹き荒れる。
東京湾岸に位置する大遊園地フェアリーランド。
東京港連絡橋。
水道橋ビックボウル。
新都庁舎を中心とする新宿新都心高層ビル群。
米軍横田基地。
ことごとく、彼らの前にくずおれる。
破壊の嵐はこれだけでは収まらず、日本を飛び出してアメリカへ向かった四兄弟は、世界を舞台に大暴れを続けるのであった。
なにしろ派手で痛快です。
そして、当るを幸い、権力や多数の力を頼んだものの暴力、いわゆる世間の常識とやらをたたき切る、ちょっと危険なまでに辛辣(しんらつ)な語り口。
時代としてほとんど現代を扱っているだけに、そこにはストレートで強烈な現状批判がちりばめられることになります。
作者の考え方に共鳴できる読者には応えられない快感です。もっともあまりに現代でありすぎて、単行本になった時点で、すでにして中身が古くなってしまっている悲劇なんていう個所も結構出てきていますけど……。
美形ぞろいの四兄弟をはじめとして、登場人物は、それぞれ個性的で魅力的な連中ばかりです。
落ち着いて責任感の強い長兄の始は、暴走しがちな兄弟たちを押さえておくのに苦労しています。
上品なものごし、丁寧な言葉遣いのうちに凄まじい辛辣と過激を秘めた次兄の続。
彼は繊細で夢幻的なまでの美貌の持ち主ですが、その外見にだまされて彼を侮ったものはひどい目に会うことになります。
好戦的でわんぱくな三男の終は、弟の余君のお目付役をおおせつかって言いつかっています。
けれど、どうも、余君より先に彼のほうが突っ走ってしまいがち。
おっとりした末弟の余。
自衛隊の戦車部隊と大立ち回りをやらかしたあげく、屋台の金魚すくいの金魚をなくしてしまったと嘆く余君がかわいいのです。
従姉妹の鳥羽(とば)茉理は明朗闊達(かったつ)な美少女で、竜堂四兄弟の食料調達係です。
彼女もどうやら普通の人間ではないらしい……様。
四兄弟のまわりには、不良自衛官の水池真彦(みずちまさひこ)、不良警察官の虹川耕平(にじかわこうへい)、不良新聞記者の蜃海三郎(しんかいさぶろう)、そして水池が拾った捨犬の松永良彦(まつながよしひこ)くんらが集まります。
皆さん、どんな事態になっても、余裕綽綽(よゆうしゃくしゃく)でユーモアを忘れない楽天的な性格で、安心して見ていられます。
彼らと竜堂四兄弟の間にはどうやら前世の因縁があるらしい……。
というわけで、竜堂四兄弟は古代中国につながるらしい自分たち自身の存在の謎をも探っていかなければなりません。
中国に、さらには異空間へと舞台を移し、彼ら四兄弟がこれから何をやらかしてくれるか楽しみなところです。
作者の未来物《銀河英雄伝説》も、ほとんど科学性無視という点から考えると、SFというよりファンタジーという気もして、いっそのこと《銀河英雄伝説》のほうをここで紹介してしまおうかとも考えたのですが、一応無難に、誰が見てもファンタジーの
《創竜伝》を選んでみました。
作者のおしゃべりの過激さがたまりません。