第1章 異界にのぞむ 変貌する世界

REIKAI MA HEN ROKU by Shimizu Yoshinori

霊界魔変録

清水義範


霊界からの侵略者と戦う
霊能力を持った好青年

大峯山奥駆け修行

軽い気持ちで出場したトライアスロンの競技で学生の部で一位になってしまった諸戸征人(もろとまさと)。
以来、大学のキャンパスにいても女子学生からサインを求められるなど、彼は妙に有名人になってしまっていた。
もっともそんなことで自分を見失うこともなく、彼は自分のペースを守り、大学の陸上部の客分部員として、それまでと変わらず鍛練に励んでいたのだが……。
そんな彼が、大峯山奥駆け修行に参加することになった。
修行に参加するだけの体力がないという叔父の諸戸貞夫(もろとさだお)に頼まれたのである。
諸戸貞夫は変人として知られる古代史学者で、妻の死をきっかけに5年ほど行方不明になっていたのだが、陸上部の合宿に参加した征人の目の前に、ある日ひょっこり現れたのだ。
彼は黄金埋蔵伝説を調べるうちに、修験道の霊峰である大峯山に興味を持ったというのである。
征人が諸戸貞夫の研究に協力することにしたのは、最近見るようになった嫌な夢を、修業に参加することによって見なくなるかもしれないという漠然とした期待もあってのことだった。

しかし、この修行で征人は、かれらの先達(せんだつ)を務める山伏、霞(かすみ)の行者から、自分に一種の強い験力(げんりょく)が備わっていることを知らされ、夢ではない現実の世界で、ある怪異を体験することになる。
奇怪ななにものかの霊力に狙われた征人は、不思議な少女美由(みゆ)によって救われたのだ。

征人を襲う怪

山から下りた征人は、陸上部の部室で奇怪な幽霊と遭遇する。
征人はこれを、奥駆け修行で覚えた呪文を使って折伏(しゃくぶく)した。
しかし、さまざまにおぞましい姿をした無数の幽霊は、征人に謎の言葉を残して消えたのである。

そして征人は、霞の行者に誘(いざな)われ、今度は叔父と一緒に再び大峰山へ赴(おもむ)くことになる。
大峰山の奥深くにあって、落雷によって割れた鬼面岩には、征人の名前を刻んだ文字が浮かび出ていたのであった。
征人は、どうやら、霊の世界の何らかの戦いのなかに巻き込まれてしまったようである。
彼につきまとう怪異は、彼を殺そうとするものと、彼に味方をしようとするものの二派に別れているらしい……。

霊界からの侵略者

怪異な力を操って征人を狙う、日本の政財界の権力を一手に握っているといわれる秦政二郎の正体は?
邪輪廻(じゃりんね)とは?
二人めの邪輪廻を目論む亜死羅(あしら)とは何物なのか?

何物かに憑依(ひょうい)されることによって神秘的な力を発揮する少女美由(みゆ)。
修験者たちに天空行者(てんくうぎょうじゃ)とも呼び習わされる魔天道人(まてんどうじん)。
そして、敵の陣営から寝返って頼もしい味方となった檜笠才蔵(ひがささいぞう)を仲間に加え、大嶺山から羽黒山、さらには恐山へと、各地の霊山を経巡りながら、征人は世界を支配しようとする、霊界からのおぞましい侵略者に立ち向かっていくのであった。


管理を嫌う健全で暖かい目

物事のありようをひっくり返して、まったく別の視点を読者に示してくれる、ある意味ではファンタジーな味わいの深いパスティーシュ小説の書き手として評価の高い清水義範。
これはその清水義範の伝奇ファンタジーです。
ストーリーもキャラクターも飛び抜けているというわけではなく、並みの水準のジュブナイルだと思うのですが、この作者の書くものは、すべて妙に気にいっているのでおすすめしてしまいます。

非常にものの見方が健全で、それが心地好いのです。
といっても、教条主義的な、押しつけがましいものではありません。
非常にシニカルに鋭く物事の裏側に迫り、その意味では、意地の悪いほどひねくれた物の見方をしているのですが、その根底にある目がたいへん温かいのです。
その優しさを内に持ったうえで、規制を嫌い、通常の規範に縛られない自由なものの見方が快く感じられます。

この作品の主人公諸戸征人も、一つことに熱中するあまり視野が狭くなってしまっている根性一本槍のスポーツだけ青年ではありません。
きちんと現実を生きている、バランス感覚に優れたいかにもこの作者の主人公らしい好青年なのです。
世界征服を企むおぞましい化けものを相手に、明るく戦いたい読者におすすめのファンタジーです。

運の悪いでもしか先生──『魔獣学園』

他に、やはりソノラマ文庫の『魔獣学園』もおすすめですが、これは、はっきり“SF”です。
就職したばかりで初めて担任することになったクラスには、狼男と、超能力少女と、未来人と、アンドロイドと、異星人に取り憑かれてしまった少年と、世界征服を企む超天才少年が……。
おまけに隣の教室には空飛ぶ正義の宇宙人までいてしまうという運の悪い“でもしか先生”。
この先生がこの学校で巻き込まれる奇想天外な事件を、作者の筆はおもしろおかしく描きます。
この先生、就職試験であまりに正直に振る舞ってしまったために、普通の会社に就職できなかったという、官僚主義の教師にも、熱血先生にも到底なれそうのない、けれども、生徒には理解のある、なかなか理想的な先生です。


《霊界魔変録》 REIKAI MA HEN ROKU by Shimizu Yoshinori  清水義範 著  ソノラマ文庫
『第1巻・霊峰黄金道』 REIHOU OUGON DOU  1987年10月31日
『第2巻・羽黒冥府道』 HAGURO MEIFU DOU  1988年5月31日
『第3巻・恐山無明道』 OSOREZAN MUMYOU DOU  1989年8月31日
『第4巻・死闘輪廻道』 SHITOU RINNE DOU  1990年3月30日

『魔獣学園』 MAJUU GAKUEN by Shimizu Yoshinori  清水義範 著  1984年2月28日  ソノラマ文庫
『魔獣学園2』 MAJUU GAKUEN vol.2 by Shimizu Yoshinori  清水義範 著  1984年5月31日  ソノラマ文庫

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