さまざまに考えさせられて読み応えのある、心に残る作品ではあるのだが……。
何人かの理解者も現れて、本人もいいように社会と折り合いを付けて、それなりにいい方向へと向かい始めたかに思われた彼を、最後の最後にあんなふうに死なせなくてもいいのに。
あれがなければそれなりに気持ちよく読み終えることができたんだけどなぁ。
決定的なその時に実際に何があったのかが具体的に描かれないまま終わってしまうというのもすっきりしない。
読者を現実の苦さから逃がしてくれない髙村薫は、読了後に残る辛さを覚悟しないと読めない、わたしにはいささかハードルの高い作家なのである。
2019年07月28日
2019年07月10日
ベッキー・チェンバーズ『銀河核へ』読了(ネタバレ注意)
リドラ・ウォンのランボー号(『バベル-17』 サミュエル・R・ディレーニイ)かアシュビー・サントソ船長のウェイフェアラー号かという、気持ちのよい航宙を楽しんだ。
この気持ちのよさは船長の人選の妙、人を見る目に負っているわけで、リドラ・ウォンはもちろんああいう特殊な能力を持った人なので当然といえば当然なのですが、そうした特殊な能力を持っていないはずのアシュビー、偉い! なのでした。
ここのところ、ピーター・ワッツやムア・ラファティの悪夢のような船内生活が続いたので、この心地よさが嬉しかった。
地球人類と異星の知的生命体混成のウェイフェアラー号のクルーは皆、何らかの意味でのマイノリティであり、それぞれに痛みを知る繊細で気遣いのある彼らが、お互い同士の適度な距離感を探りながら、おずおずと気配りや優しさを差し出して、この世界でも知的生命体としては認められていない船のAIまでをも包み込み、気持ちのよい関係性が醸し出されていく。
また、地球人類そのものが、宇宙の知的生命体の中ではようやく認めて貰っている程度のマイノリティだという設定であるため、いわゆる普通の地球人類種の人々も、マジョリティの傲慢を大上段に振りかぶるわけにはいかないのである。
わたしたちのリアルワールドで生きづらさを抱えたマイノリティであることを自覚している著者は、それゆえにこそ、小説世界の中に、マイノリティにとって極めて心地よい空間を作り上げることに傾注したのかもしれない。
ハードSFというほど科学的に詰めているわけではないようだが、わたしの乏しい科学知識では気にならない程度に基本はきっちり押さえているように思われる。
例えば、異星起源の知的生命体たちが皆あまりに人間的なのが気になるといえば気になるところだが、上巻224ページに「銀河系についての考察--第三章」をさりげなく挟み込むことでこの問題からうまく逃げてくれるので、これを気にすることなく物語を楽しむことができる。
主人公が世間知らずのお嬢様育ちという設定も上手い。
何も知らない主人公を道案内に、徐々に宇宙の暮らしに馴染んでいく彼女と一緒に、読者はこの世界に馴染んでいくことができる。
主人公は世間知らずというだけで、頭も性格もよくて教育程度も高いので、主人公の馬鹿さ加減にイライラさせられることもない。
ちょっと上手くいきすぎという気もするし、このやり方を地球人類種だけで構成されているわたしたちのリアルワールドにそのまま適用することはできないなぁとも思うのだが、異質な文化文明に対して一方的に自分たちの価値観を押しつけることをしない、勝敗に拘らないラストの解決の仕方も気持ちがいい。
とにかくこの作品、わたしはとっても気に入ってしまいました。
シリーズ化されているようなので、願わくは、そんなに間をおかずに、次巻以降も日本語で読むことができますように!!
この気持ちのよさは船長の人選の妙、人を見る目に負っているわけで、リドラ・ウォンはもちろんああいう特殊な能力を持った人なので当然といえば当然なのですが、そうした特殊な能力を持っていないはずのアシュビー、偉い! なのでした。
ここのところ、ピーター・ワッツやムア・ラファティの悪夢のような船内生活が続いたので、この心地よさが嬉しかった。
地球人類と異星の知的生命体混成のウェイフェアラー号のクルーは皆、何らかの意味でのマイノリティであり、それぞれに痛みを知る繊細で気遣いのある彼らが、お互い同士の適度な距離感を探りながら、おずおずと気配りや優しさを差し出して、この世界でも知的生命体としては認められていない船のAIまでをも包み込み、気持ちのよい関係性が醸し出されていく。
また、地球人類そのものが、宇宙の知的生命体の中ではようやく認めて貰っている程度のマイノリティだという設定であるため、いわゆる普通の地球人類種の人々も、マジョリティの傲慢を大上段に振りかぶるわけにはいかないのである。
わたしたちのリアルワールドで生きづらさを抱えたマイノリティであることを自覚している著者は、それゆえにこそ、小説世界の中に、マイノリティにとって極めて心地よい空間を作り上げることに傾注したのかもしれない。
ハードSFというほど科学的に詰めているわけではないようだが、わたしの乏しい科学知識では気にならない程度に基本はきっちり押さえているように思われる。
例えば、異星起源の知的生命体たちが皆あまりに人間的なのが気になるといえば気になるところだが、上巻224ページに「銀河系についての考察--第三章」をさりげなく挟み込むことでこの問題からうまく逃げてくれるので、これを気にすることなく物語を楽しむことができる。
主人公が世間知らずのお嬢様育ちという設定も上手い。
何も知らない主人公を道案内に、徐々に宇宙の暮らしに馴染んでいく彼女と一緒に、読者はこの世界に馴染んでいくことができる。
主人公は世間知らずというだけで、頭も性格もよくて教育程度も高いので、主人公の馬鹿さ加減にイライラさせられることもない。
ちょっと上手くいきすぎという気もするし、このやり方を地球人類種だけで構成されているわたしたちのリアルワールドにそのまま適用することはできないなぁとも思うのだが、異質な文化文明に対して一方的に自分たちの価値観を押しつけることをしない、勝敗に拘らないラストの解決の仕方も気持ちがいい。
とにかくこの作品、わたしはとっても気に入ってしまいました。
シリーズ化されているようなので、願わくは、そんなに間をおかずに、次巻以降も日本語で読むことができますように!!
posted by 庵主 at 05:48| 本