ユニコーンは自分の森を出て仲間を捜すことにした。
森に入り込んだ人間たちの話から、世界中のユニコーンが姿を消してしまったことを知ったのである。
森を出た彼女(このユニコーンは牝である)は、人間たちが随分変わってしまっているのを知る。
彼らには、ユニコーンがただの白い牝馬にしか見えないのである。
そこでユニコーンは、ミッドナイト・カーニヴァルのフォーチュナ婆さんに捕まって見せ物にされてしまう。
婆さんは、見物人に魔法をかけて、ただのライオンや犬をマンティコアやケルベロスに見せかけているのである。
しかし、本物のユニコーンである彼女をユニコーンに見せかけるために、婆さんは魔法を使わなくてはならなかったのだ。
彼女をミッドナイト・カーニヴァルから助け出してくれるのは、大魔術士になれるだけの力を持ちながら、力を使いこなす術(すべ)を知らない三流の魔術士シュメンドリックである。
自分の力を使いこなすことができるようになるまで、シュメンドリックのなかの時間は止まったままで、彼は歳を取ることもない。
このシュメンドリックと、森の盗賊キャプテン・カリーの女で、ユニコーンの訪れが自分にとって遅すぎたとユニコーンをなじる中年女のモリー・グルーが道連れとなって、ユニコーンの探索の旅を助けてくれることになる。
他の人間たちとは違って、この二人には、ユニコーンがちゃんとユニコーンに見えるのだ。
さまざまな冒険を経た後(あと)、彼らはユニコーンたちが捕われているというハガード王の城へ向かう。
一行がハガード王の城の見えるところまでやって来た時、恐ろしい“赤い牡牛”が彼らに襲いかかった。
反狂乱になって逃げまどうユニコーンを助けるために、シュメンドリックは、ユニコーンを一人の乙女に変えてしまった。
シュメンドリックの魔力の一端が、初めて力を見せたのである。
シュメンドリックの狙いのとおり、牡牛は娘の姿のユニコーンには興味を示さず立ち去ってしまったが、彼は娘をユニコーすべ
ンの姿に戻す術(すべ)を知らなかった。
美しい乙女の姿のユニコーンを伴って、彼らはハガード王の城へ入る。
シュメンドリックはハガード王に気にいられて、お抱えの魔術士、というより道化師となリ、モリーは台所女として、そして、アマルシア姫と身分を偽ったユニコーンは客人として城に滞在しつつ、彼らは赤い牡牛とユニコーンの謎を解こうとするのであった。
なんとも複雑に、さまざまな寓意を含んで展開されるお話です。
そのため謎解きをし始めると、どうにももつれて絡んで頭がおかしくなりそうな気がしてしまうのですが、とりあえず表面のあるがままの物語を楽しんでみてください。
素直に楽しんで、それだけで充分感動的なお話です。
夢とも現(うつつ)ともつかない幻想的なさまざまなイメージが素晴らしいのですが、特に海に閉じ込められていたユニコーンの大群が、次から次へと、波ともユニコーンともつかない姿のままに陸地に押し寄せ上陸してくるクライマックスの描写は圧巻です。
「ユニコーンたちは、しばしば角をもった馬のように描かれてきたものだが、彼女の姿は、それとは似ても似つかなかった。馬よりは小柄であったし、ひづめも割れていた。一度たりとも、馬どもが持ち合わせたことのない太古の野生そのままの優美
さが彼女にはそなわっていた。──中略──ユニコーンの首は、ほっそりと長く、おかげで、頭は小さく見えた。背中のほぼ中央のあたりにまでかかったたてがみは、たんぽぽの毛のように柔らかで絹雲のように美しかった。尖った耳と細い脚、くるぶしには羽毛のような白い毛。眼の上の長い角は、真夜中でさえ、独特の貝殻色の光を放って輝いていた。」
これに顎髭をつけ加えた姿こそ、中世ヨーロッパの絵画やタペストリーに描かれた、本来のイメージ通りのユニコーンの姿です。
その顎髭も、ここに描写されたユニコーンは牝なので生えていませんが、牡のユニコーンには生えていることになっています。
単に馬に角をつけただけのものではなく、やっぱりユニコーンはこうでなくてはいけません。