庭の葉影にかいま見る小さな異界。
かそけき月の光や星の光のもとで、血の色をした火星の光の下で、踊りまわり歌うたう妖精たち。
妖精の輪、ドクニンジン、風のおしゃべり。
エルフにフェアリー、土の精ノーミイ、水の精ナイアド、パンの神、夜のなかに燃えて踊る火の精ザラマンデル。
朝になれば誰もいない丘。
そこにはいない誰かが扉を叩き、沈黙がカンバーランドの老いた王様の心臓をひと掴(つか)み。
幽霊屋敷、幼な子の亡霊、夢を誘う砂男。
夜の精が灯すランタン。
闇の駿馬。
幼な子たちの遠い呼び声……。
優しくて、意地悪で、かわいくて、不気味な妖精たち……。
1922年に出版されたこの詩集は、“幼な心の詩人”ウォルター・デ・ラ・メアが、私たちが通常イメージする近・現代の妖精や魔女の姿を美しい言葉で綴ります。
幻想的な言葉の羅列が快い陶酔感を誘い、豊かなイメージに身を任せて、妖精たちの異界に魂を漂わせることができます。
そしてこのデ・ラ・メアの異界は、幼い頃、自分もまた、庭の葉影や月の光の下にそうした不思議をかいま見たことがあるような、そんな懐かしい思いを読者に与えてくれるのです。