槍試合のために天領の町を訪れた騎士フルトブランド。
彼は、さる大名の美しい養女ベルタルダの頼みを聞いて、不思議な生きものや妖怪が現れるという噂のある森の様子を探りに行った。
森では、小川や噴泉の化身であるらしい奇妙な白い男が、フルトブラントを湖水に突きでた岬の上の漁師の家へと導いた。
彼はこの家に一夜の宿を求めることにする。
そこには歳をとった漁師の夫婦が、養女であるウンディーネという不思議な娘と一緒に暮らしていた。
目のさめるように美しい、奔放なブロンドの娘である。
その夜、漁師の家は湖の増水で陸地と切り離され、孤島のようになってしまった。
漁師の家に足止めされて何日間も暮らすうち、フルトブランドは、こどものように自分の思いのままに振る舞う気紛れなウンディーネに、すっかり心を奪われてしまう。
そこでフルトブランドは、折よく、荒れた湖に翻弄されて彼らのところに打ち上げられてきた司祭に頼んで、ウンディーネとの結婚の儀を取り行ったのである。
そして彼女は、フルトブランドに打ち明ける。
彼女は水界の王の娘であり、ウンディーネと呼ばれる水の精霊の一人であったのだ。
水界の王は、娘に魂を持たせようと、彼女を人間のもとに送ったのである。
魂を持たないウンディーネは、人間と結婚することによって魂を持つことができ、死んだ後でも塵に帰ることはなく、魂だけの清らかな生活に入ることができるのだ。
彼らを閉じ込めていた水が引き、フルトブランドはウンディーネを伴って天領の町へ帰っていった。
ところがそこには、フルトブランドを慕うベルタルダが待っていたのである。
1811年、ドイツの作家であり軍人でもあったフーケーによって書かれた、水界の王の娘ウンディーネの悲しい愛の物語です。
前半の、魂を持っていないウンディーネの生き生きとした奔放な明るさが魅力的。
「魂って重い荷物に違いないわ。とても重いものに違いないわ。だって、そのかたちが近づいてくるだけで、もう私には居ても立ってもいられないような心配や悲しみが影のように覆いかぶさって来るんですもの。いつもはあんなに軽い、楽しい気持でいられたのに」
初めて魂を持つことになる、婚礼の日のウンディーネの言葉です。
もっともこれは、娘時代の無責任な楽しい境涯から、おとなとしての重い責任を担わなければならなくなる、結婚式の日の花嫁の心境に他ならないとも思われます。
ともあれ、魂を持つことが人間らしい自然な感情を押し殺してしまうことならば、魂など持たないほうがよいような気もします。
来世のことなどまったく信じていない身には、魂だけの清らかな生活というものに、まったく憧れがないせいもあるのでしょうけれど……。
魂を持ってしまったウンディーネは、その途端、淑(しと)やかで従順、あくまで善意からのみ行動し、自分を殺して相手に尽くす、理想的な淑女に変わります。
ところが、そうなってしまったウンディーネからはフルトブランドの心が離れ、自分の心のままに生きているわがままなベルタルダに心を移してしまうのです。
フルブランドが愛するのは、どうも、わがままな愛らしい女性であるようです。
それでもウンディーネは、どんなことになろうとも、悩んだり苦しんだりできる魂を持つことができたことを喜び、感謝をもってフルトブランドに仕えることをやめません。
けれども、フルトブランドの無頓着とベルタルダのわがままは、ついにはウンディーネを水界へと追い返し、さらなる悲劇に彼ら三人を追い込んでいくことになるのです。
大自然の景物の描写が大変美しく、また、人の世に垣間見える異界の諸々のイメージの描写がたいへん独創的です。