ロジャとアリスンは兄妹になったばかりである。
それぞれの父親と母親が、彼らを連れて再婚したためだ。
新しく家族となった彼ら4人は、夏の休暇をウェールズの屋敷で過ごすことになった。
屋敷は、今はなき父親からアリスンが受け継いだものである。
屋敷の家事をしてくれるのは、もともとは土地の人間でありながら長い間よそで暮らしていたナンシイだった。
彼女は、息子のグウィンを連れてやって来ていて、同じ年頃の彼らは友達づきあいをすることになったのだ。
そんなある日、グウィンとナンシイは屋敷の天井裏からたくさんの皿を見つけた。
一見して花模様が書かれていると見えるそれは、見方を換えるとふくろうの模様になっていた。
一方その頃、川辺で遊んでいたロジャは、穴が空いた奇妙な1枚の岩が立っているのを見つける。
このとき彼ら三人は、ほとんど同時に、身の内に何かが目覚める不思議な感覚を覚えたのであった。
彼らはそれぞれ、自分たちが今までと変わってしまったのを感じるのだが、一番変わってしまったのはアリスンだった。
彼女はふくろう模様に取り憑かれてしまったように、一人で皿を隠して皿の模様を書き写し、ふくろうの切り抜きを作り続ける。
アリスンは、これをやめることができなくなってしまったのである。
ロジャたちが皿を見つけたことを知って怒り狂うナンシイ。
彼女は何かを隠したがっているようである。
ナンシイが忌み嫌う屋敷の下働きヒュー・ハーフベイコンは、彼らの周りを不気味にうろついて、三人をどこかに導いていこうとしているらしい。
そして、三人を見て不可解な噂話をしている村人たちも、確かに何かを知っているようだ。
こうして三人の子供たちは、大昔のケルトの伝説の時代から延々と連なる、愛と憎しみの因縁のなかに巻き込まれていくことになる。
ロジャとアリスンは征服者であるイングランド人。
そして、グウィンはイギリス人に征服されたウェールズの人間です。
物語で描かれる北ウェールズの谷間のウェールズ人は、その土地の本来の人間でありながら、イングランド人にすべてを取り上げられて、貧しい生活を強いられています。
もともとは彼らのものであった土地も、今ではイングランド人のものであり、古代の王家の直系の血筋にあたるヒュー・ハーフベイコンでさえ作男の地位に甘んじるほかありません。
彼らの誇るべき固有の文化も、一段劣った野蛮なものと落としめられて軽蔑されてます。
最初は自分たちが巻き込まれた不思議の謎を力を合わせて解明しようとする三人ですが、こうした立場の違いは、彼らの間に徐々に亀裂を生じさせていくことになります。
親の敷いたレールに乗って走っている限り、親たちの世代と同様の安楽な生活が保証されていて、そこから決してはみ出すことができないロジャとアリスン。
親の敷いたレールなどというものがそもそもなくて、自分で自分の道を切り開いていかなければならないグウィン。
身分の違いを乗り越えてグウィンに好意を持ったアリスンも、結局は自分の安楽な場所から踏み出すことはできません。
自分たちより低いものと見ているウェールズ人のグウィンに、自分より優れたものがあると認めたくないロジャは、アリスンのグウィンへの好意を苦々しいものと感じます。
彼らのこうした意識は、この二人よりもずっと厳しい現実を生きているグウィンを決定的に傷つけてしまうことになるのです。
一人の乙女を巡って繰り広げられる男たちの血で血を洗う争い。
そして、そのために罰せられる乙女……。
パターンとなって繰り返される悲劇の輪のなかに捕われてしまった
三人が、その輪から抜け出すために戦わなければならない相手は、こうした今現在の自分たち自身の問題でした。
児童文学の棚に並んでいる本ですが、お話は酷く重くて辛く、おおいに考えさせられる内容を持っています。
同じ作者の、『ブリジンガメンの魔法の宝石』と 『ゴムラスの月』もおすすめのフアンタジーです。
これは、外国に赴任した両親と別れ、かつて乳母をしてくれたベスの田舎に預けられた兄妹が、そこで善と悪との戦いに巻き込まる物語です。
これもケルトの匂いの濃厚な話ですが、主人公スーザンとコリンの兄妹は、『ふくろう模様の皿』の三人と比べると、理解ある感じのいい人たちや、やはり理解のある感じのいいこびとや妖精やその他諸々(もろもろ)に囲まれて、ずいぶん幸せにファンタジー世界を体験することができました。
『ふくろう模様の皿』ほどには重くない、楽しいファンタジーです。