カンサスの渇ききった灰色の大草原で、みなし子のドロシーは、ヘンリーおじさんとエムおばさんと真っ黒な小さな犬のトトと一緒に暮らしています。
ある日、ドロシーの家を、大竜巻が襲いました。
家にはそういうときに避難するための地下室が用意してあったのですが、小犬のトトを捕まえようとしたドロシーは逃げ遅れてしまいます。
竜巻はドロシーの家をそのまま持ち上げて、どんどん浮き上がらせて、ついには、竜巻のてっぺんまで持っていってしまいました。
そして何マイルも何マイルも家を運んでいってしまったのです。
ドロシーと小犬のトトをそのなかにいれたまま……。
あんまり長い時間そうして運ばれていたために、ドロシーは疲れて、自分のベッドに潜り込んでぐっすり眠ってしまいます。
突然ガクンとひどいショックを受けて、ドロシーははっと目を覚ましました。
家はもう動いていません。
窓から見えるのは、カンサスの灰色の大草原とは大違いの、緑に満ちた美しい風景です。
そのなかを、見慣れぬへんてこりんな格好の人たちが歩いて来ました。
ドロシーとそんなに変わらない背丈の、けれども、おとなの人が四人です。
高さが一フィートもある丸縁のとんがり帽子をかぶり、その縁のまわりにはずらりと小鈴が並んでいて、歩くたびにチリリ、チリリ、とかわいい音を立てています。
三人の男の人の帽子は青、服の色も青でした。
歳をとった女の人の帽子は白で、小さな星をいっぱい振りまいた白いガウンをはおっています。
ここはオズの国のマンチキンというところでした。
彼らは、マンチキンの人たちを奴隷にしていた悪い“東の魔女”を、ドロシーが退治してくれたお礼を言いにきたのです。
ドロシーは知らなかったのですが、彼女の家が落っこちたとき、“東の魔女”を押し潰してしまったのです。
白いガウンのおばあさんは“北の魔女”、良い魔女のおばあさんでした。
ドロシーのカンサスのような文明国とは違って、まわりの世界からすっかり切り離されて、まだ開(ひら)けていないオズの国には、いろいろな不思議がまだ残っているのです。
こうしてドロシーは、不思議な魔法のオズの国へとやってきました。
ドロシーが、ヘンリーおじさんとエムおばさんのいるカンサスへ帰るためには、オズの国を治める大魔法使いのオズに力を貸してもらわなければなりません。
ドロシーは、オズの住む“エメラルドの都”へ続く黄色いレンガの道を旅立つことになりました。
ベッドの横にかかっていた白と青のギンガム格子の服を着て、悪い“東の魔女”の履いていた銀の靴を履き、戸棚のなかに入っていたパンをいっぱい入れた小さなバスケットを手に持って。
きまじめな顔でトコトコ歩くトトをおともに、ドロシーの大冒険が始まります。
ドロシーには、旅の途中、三人(?)の仲間が出来ました。
彼らはオズに願い事をしに行く土路地の話を聞いて、それぞれ自分にないものをオズにもらおうと一緒に旅をすることになったのです。
マンチキンのお百姓さんの畑に立っていた能ミソのないかかしは、知恵のいっぱい詰まった能ミソを欲しがっています。
彼はかかしなので、ばらばらになっても、身体の中身を引き出されてぺちゃんこになってしまっても平気です。
けれども彼は、燃えやすい藁(わら)でてきているので火をたいへん恐れています。
心臓のないブリキの木樵りは、暖かい心がいっぱい詰まった心臓をもらいたいと思っています。
彼は木を切っている途中、錆(さ)びついて動けなくなってしまっていたところを、ドロシーに油を挿してもらって助けられました。
彼は油が切れると錆びついて動けなくなってしまうのです。
憶病者のライオンは勇気が欲しいと思っています。
けれどもおもしろいことに、能ミソがないと嘆いているかかしは、実はなかなかの知恵者で、彼らが困ったときにさまざまな知恵を絞って切り抜けるのは彼の役目です。
心臓のない木樵りは、歩いていてうっかり虫を踏み潰してしまったと言って泣き出すような優しい心の持ち主です。
憶病者のライオンは、恐い恐いといいながら、やらなければならないとなったら、目も眩(く)らむような高い谷を、ドロシーや仲間たちをその背に乗せて跳び越える勇気を持っているのです。
彼らは、自分にないと思っていたもの、欲しいと思っていたものを、実は、もう持っていたのです。
そんな彼らに、それぞれの欲しがっていたものを与えたオズのやり方はとても愉快で楽しいものでした。
オズの国は、それぞれとてもカラフルです。
青い色が大好きな東の国のマンチキン。
黄色が大好きな西の国のウィンキー。
赤が好きな南の国のクワドリング。
そして、彼らを治めている“エメラルドの都”は緑色。
もっとも、“エメラルドの都”には仕掛けがあって、都へはいるものはみんな、緑色の眼鏡を掛けなければなりません。
そのため、“エメラルドの都”ではすべてのものが美しい緑色に輝いて見えるというわけです。
子供の頃素直に素晴らしいと思えたアイディアなのですが、今考えてみると、そうまでして人の好みを統一してしまおうとするオズのやり方に疑問が湧いてこないでもありません。
ともあれ、全体に明るい色調で描かれた現代のおとぎ話です。
小さな小さなセトモノの人間や犬や牛が住んでいる、きれいなセトモノの国、永遠の眠りを誘うポピーのお花畑、ネズミの民を率いるネズミの女王様、丘を通る人たちの邪魔をする頭でっかちの怪物トンカチ頭といった楽しいアイディアが随所にあふれています。
奇抜で楽しい『オズの魔法使い』は、当時(1900年代)のアメリカで大評判になったためたくさんの続編が書かれ、日本語訳もかなりの数が刊行されています。