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『太字斜体』の見出しは書籍名、「太字」の見出しは単行本収録の作品名です。
「斜体」は引用です。

“蓼食う虫”の本棚の奥から
008号(2000年4月10日)


BIMBOS OF THE DEATH SUN by Sharyn McCrumb, Translated by Asaba Sayako

暗黒太陽の浮気娘

シャーリン・マクラム 著 浅羽莢子 訳

“SF大会”経験者にはたまらない1冊

アメリカの地方SF大会“ルビコン”で、ゲストのヒロイック・ファンタジー作家“アッピン・ダンギャノン”が殺される。
1冊だけSF小説を出版したことのある関係で、参加費自分持ちのゲストとして“ルビコン”に参加していた常識人(“SFマニア”ではない)の“ジェイムズ・オーウェンズ・メガ博士(本業は地元の大学の工学部の教授)”は、“SF大会”参加者のハチャメチャぶりに呆れ返りながら、同じ大学の文学部教授で“SF”を教えている恋人の“マリオン・ファーリィ”とともに、犯人捜しに取り組むのだが……。

“SFマニア”の変人奇人が大量出演しておかしなエピソードを次から次へと紡ぎ出していくのだが、それがまた、いかにも“らしく”て、“SF大会”経験者にはたまらない1冊。
普通人を自認する“メガ博士”も……実はかなりおかしい(^^ゞ
たぶん、この小説に出てくる本当の普通人は、偶然“SF大会”の開かれるホテルに滞在していたスコットランドのフォーク歌手“ドニー・マクローリィ”と、事件のためにやって来た“アイハン警部補”だけなんじゃないかと思うのだけど、この二人、目を白黒させながらも、それぞれ、それなりの幸せ(?)を手にして“SF大会”を後にするっていうところに、作者の“SF大会”への愛が現れているようで、嬉しい。
本当は“文学”と呼ばれる作品を発表したいのに、人気が出てしまったために、嫌悪してやまない“ヒロイック・ファンタジー”のシリーズを書き続けることをやめられず、ファンに悪態をつくことを生き甲斐にしている奇人“アッピン・ダンギャノン”の強烈な個性も“蓼虫”には魅力。
“ダンギャノン”によると、

シリーズを読む頭の変なファンどもは、ダンギャノンの徹底した手抜きによるポカにさえ、もっともらしい理由を考え出しては何時間も楽しむのだ。〈ルーンの風〉の剣の長さが違うわけや母親の名前が二つあるわけを説明しようと、ひっきりなしに記事を書き、謄写版で刷った糞も同然の読むに耐えない代物に発表する。今のところ、一番可能性のある二つの理由−−無関心とシーバス・リーガル−−はまだ提案されていない。

……なんだそうです(^^ゞ

1989年7月15日 427円 早川文庫

CITY by Clliford D.Simak, Translated by Hayashi Katsumi

都市 −−ある未来叙事詩−−

クリフォード・D・シマック 著  林克己 訳

WAY STATION by Clliford D.Simak, Translated by Funado Makiko

中継ステーション

クリフォード・D・シマック 著  船戸牧子 訳

THE WEREWOLF PRINSIPLE by Clliford D.Simak, Translated by Funado Makiko

人狼原理

クリフォード・D・シマック 著  船戸牧子 訳

THE GOBLIN RESERVATION by Clliford D.Simak, Translated by Adachi Kaede

小鬼の居留地

クリフォード・D・シマック 著  足立楓 訳

もの悲しくも複雑な“シマック”の世界

その惑星の主である犬たちの間には、“人間”と呼ばれる不思議な生き物に関する伝承が語り伝えられていた。
その伝承を集成し、テキストとしてまとめたのがこの本である……という設定で、いかにして人間が地球から姿を消し、犬たちに世界を譲り渡していったかを語るオムニバス形式の物語。
最初に語られるのは、個人の移動がきわめて自由になったことによる都市の崩壊。
この章で、もはや無用の長物となってしまった都市の議会の秘書として登場し、自分たちの地位にしがみつこうとする議員達に引導を渡す男として登場する“ジョン・J・ウェブスター”。
彼を始祖とする“ウェブスター家”の代々の当主と、地球上から人間が姿を消しからも永遠とおぼしい年月を生きて、かつての主人であった“ウェブスター家”の人間が生み出した知性ある犬たちを見守るロボットの“ジェンキンズ”を中心に、物語は語られます。
人間はやがて、精神の自由を求めて“木星人”に変身を遂げることによって姿を消し、地球は改造されて知性を持った犬たちの世界になるのですが、その犬たちもまた、やがて、人間のミュータント“ジョオ”の戯れによって進化した蟻たちに追われて、別の次元へと移住していくことに……。

−−『都市』


1960年代、アメリカのウィスコンシン州の片田舎に、南北戦争に従軍したことがあると考えられる男“イノック・ウォーレス”が30代の外見を保ったまま暮らしていた。
疑問を持った“CIA”は、彼の身辺を調査するうちに、その家の墓地から、地球には存在しないはずの怪物の遺骸を発見する。
彼の家は、地球人よりずっと進んだ文明を持った宇宙人たちが物質転送機によって宇宙を旅行するための中継ステーションであり、ステーションの管理人である彼は、ステーションの中にいる間は歳を取らないのである。
自分の本当の時代から遙かに隔たった世界で、地球人とほとんど接触することなくひっそりと暮らす“イノック”ではあるが、それでも地球人であることへのこだわりを捨てず、彼はいつの日か地球人が宇宙文明に参加することを夢見て、訪れる宇宙人との交歓を楽しみながら時を過ごしているのである。
しかし、宇宙人の死体が盗まれ、また、粗野な家族から虐待される聾唖の娘“ルーシー”をステーションにかくまったことから、彼の静かな生活は大きな転機を迎えることになる。

−−『中継ステーション』


冷凍されてカプセルに入れられ、宇宙空間を漂っているところを発見された“アンドリュウ・ブレイク”。
200年前の地球の知識以外の記憶をすべて失って素性不明の“ブレイク”は、治療を受けている病院で、狼もどきの異星人の姿に変身してしまう。
彼は、地球と環境の異なる異星を探査するために作られた、異星の生物の心と身体をコピーして、その生物に変身することのできる“アンドロイド”だったのだ。
“ブレイク”の中には、本来ならば、探査が終わった時点で消え去るはずだった二体の異星人の心と身体が消えずに残っているのである。
逃亡した“ブレイク”は、議員の娘“エレーヌ”や、地球に移住している異星人“ブラウニー”たちの助けを受けて、自分の地球人の心の素性を探るための手がかりを求めて“ウィロー・グローヴ”を目指す。

−−『人狼原理』


物質転送機によって“クーンスキン星”への探査旅行に出かけたタイム大学の超自然現象(スーパー・ナチュラル)学科教授“ピーター・マックスウェル”が到着したところは、“クーンスキン星”ではなくて、未知の惑星“透明の星”だった。
この星の滅び去った異星人の幽霊(?)の依頼を果たすことと引き替えに彼らの知識の遺産を譲り受けることになって地球に帰還した彼は、自分が死んだことになっており、住まいも職も失ったことを知る。
現在の自分は、物質転送の際、“透明の星”からの干渉によってコピーされた“マックスウェル”であり、もう一人の自分が、何者かの手によって殺されてしまったらしいのだ。
“ピーター・マックスウェル”は、ネアンデルタール人の“オップ”や、自分が誰の幽霊か忘れてしまった“お化け”、そして、彼の住まいに彼の死後(!!)入居した“キャロル”といった友人達とともに、真相を探り、“透明の星”の住人との約束を果たすために、活動を開始するのだが……。
“妖精”や“仙女”や“小鬼”や“いたずらこびと”や“お化け”や“宇宙人”や、タイムマシンによって連れてこられた“ネアンデルタール人”といった異形のものたちが人間と一緒に暮らす未来の地球を舞台に、コメディ感覚が楽しい1冊。

−−『小鬼の居留地』


懐かしくも美しいアメリカの田舎の風景。
情感あふれる筆致。
一歩離れたところから地球人を眺めながらも、完全に地球の人間であることをやめることができず、その狭間で悩む、それぞれにエトランゼの匂いを色濃く漂わせる主人公達。
単純にハッピーエンドにしてしまいがちな結末を、前に進むためには、どんなに大切なものであっても捨てなければならないことがあると、進むことの喜びよりも捨て去ることの悲しみに焦点を合わせて語られる物語が醸し出す、複雑でもの悲しい読後感……。
物語の辛いともいえる基調を和らげてくれるのは、それぞれに個性的で魅力にあふれるエイリアン達の存在です。
『都市』のかわいらしくもけなげな犬たち。
『中継ステーション』の、化けものの外見に高い知性とやさしい心を持った宇宙人“ユリシーズ”や“霞人間(ヘイザー)”。
『人狼原理』の、地球−−人間ではなくて−−が気に入って、地球の自然の中に野生の生き物たちと暮らす、外見も生活の仕方も伝説の生き物にそっくりな“ブラウニー”や、“台所(キチン)と喧嘩しながら、口うるさい母親−−あんまり好きなたとえじゃないなぁ−−のように人間の世話を焼く“コンピューター仕掛けの家”。
“ブレイク”の中の二体の宇宙人−−肩から生えた二本の腕ほかは狼にそっくりで、宇宙の神秘に感動することが生き甲斐の“探索体”と論理的思考で宇宙の謎を解き明かすことを目的に生きる、生体コンピューターとも言える“思考体”。
『小鬼の居留地』の、タイムマシンて過去から連れてこられた、たいへん理性的で頭脳明晰なネアンデルタールの“オップ”。
でっかい猫そのものの、合成生物の剣歯虎“シルベスター”……。
今になって読み返してみると、その考え方に必ずしも全面的に同調するわけには行かないところもある−−女性の描き方なんかも古くさい−−のですが、かつて大好きな作家の一人だった“シマック”は、今でも、その作品を思い起こすと特別な感慨を覚える“蓼虫”にとってはやっぱり特別な作家です。

『都市』 1965年7月15日再版発行 330円 ハヤカワ・SF・シリーズ
『中継ステーション』 1966年10月31日 300円 ハヤカワ・SF・シリーズ
『人狼原理』 1969年11月25日 320円 ハヤカワ・SF・シリーズ
『小鬼の居留地』 1971年12月31日 370円 ハヤカワ・SF・シリーズ

SEISYUN DENDEKEDEKEDEKE by Ashihara Sunao

青春デンデケデケデケ

芦原すなお 著

ロック三昧の青春の物語

1965年、四国の田舎で高校進学を控えた15歳の春休み、“ベンチャーズ”の“パイプライン”でロックに目覚めた“ちっくん”。
彼は、同じ高校の友人たちを誘ってロックバンド“ロッキング・ホースメン”を結成し、ロックに夢中の高校生活を謳歌する……。
ロックがまだあんまり知られていなくて、不良の音楽だなんて言われていた時代のお話ですが、部活動を名目に学校でも練習できるようにしてくれる音楽の先生や、若いころ趣味だったという英語の楽譜をくれる英語の先生といった理解者にも恵まれて、楽器を手に入れるために夏休みの一夏を自動車工場で働いたり、練習のために音の漏れないように雨戸まで締め切った8畳の部屋に閉じこもって汗だくになったりという苦労も、大好きなもののためには楽しくてしようがないという、輝かしい青春の物語。
ユーモアあふれる語り口と相まって、とっても楽しい気分になれる1冊です。
登場人物たちは、それぞれ個性豊かで愛すべき好人物ばかりなのですが、高校1年生にして、僧侶としての仕事を立派にこなす、酸いも甘いも噛みわけた世慣れた友人、ベースの“富士男”が、“蓼虫”の好みハート
おとなのつきあいを難なくこなして頼もしく、それでいてこどもっぽい無邪気を保ち続けているところがいいなぁ。
角川文庫からは、新人賞応募のために切りつめる前の形をそのまま残した、原本ともいうべき、『私家版 青春デンデケデケデケ』も出ています。
“蓼虫”は、すべてを書き尽くして、その分ちょっと散漫な感じの“角川文庫版”より、思いが濃縮されて無駄のない“河出文庫版”の方が好きハート

1992年10月2日 485円 河出文庫

『私家版 青春デンデケデケデケ』 芦原すなお 著 1998年7月25日 800円 角川文庫

DAI-TANKEN-KI HARUKA MABOROSHI NO MONDERUKA by Shimizu Yoshinori

大探検記 遥か幻のモンデルカ

清水義範 著

アドベンチャー教授はとっても都会派(^^ゞ

パスティーシュ小説の清水義範の、秘境探検をテーマにした3篇を収めた短編集。
「悠久のアクチアジャンパン」は、アイテナ人民共和国の奥地にあるという“アクチアアジャンパン”を求める、日本とアイテナの共同調査団の冒険行。
結末部分のどんでん返しがおかしくも泣かせます。
「遙か幻のモンデルカ」は、南米アマゾンの奥地に翼のある竜“モンデルカ”を捜すテレビ局の取材探検記。
結末はちょっと苦い……かな?
そして、“蓼虫”のお気に入り「渾身のアドベンチャー・ロード」
これは、マスコミに人気の冒険家教授が、雑誌の取材旅行で、モンゴルを思わせる“オーラングル”を行く話。
文章を書いている分にはとってもなアドベンチャー野郎なんだけど、実態は、土地のものを食べるととたんにおなかを壊し(たぶんに神経症的)、なるべくなら土地の人間とも関わりたくない、スモックのかかっていない青い空を見ると気持ちが悪いという、都会に過剰適応の、冒険にはまったく向かない“都会派教授”という、その落差がとってもおかしい。
それでも、机上の空論で文章を書くというわけではなく、とりあえずはどんな秘境へでも、たとえ担いでいってもらってでも出かけて行って、栄養剤の注射を打ってもらいながらでも冒険旅行をやり遂げようというそのきまじめさが好ましくて……“蓼虫”はこの冒険家教授がとっても好き(#^.^#)

1997年9月25日 476円 集英社文庫

DERUFINIA SENKI (1~18) by Kayata Sunako

デルフィニア戦記 (1〜18)

茅田砂胡 著

女の身体に宿っているのが時々窮屈で仕方がなくなる女達のための物語?

国を追われた放浪の王を助けた美少女は、異世界から紛れ込んできた剣技に長けた百人力の怪物で、おまけにもともとは男だった身体がその世界へ来るとき女になってしまった身。
彼女(?)は、自分を“化け者”と呼ばず、差別意識を持たない王を気に入って、王妃(形だけなんだけど)になって、彼のために力を尽くす……という物語。
まずこういう自分があって、その自分がこんな環境にあって、こういう男や女たちに囲まれていられたらどんなに楽しくって心地好いだろうっていう、女が読んでおもしろい……“少女マンガ”ね。
軽く楽しく読んで、浮き世の憂さをしばし忘れるにはいい本。

『ディルフィニア戦記(1〜18)』 1993年10月25日〜1998年12月20日 800円〜850円 中公ノベルズ

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