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『太字斜体』の見出しは書籍名、「太字」の見出しは単行本収録の作品名です。
「斜体」は引用です。

“蓼食う虫”の本棚の奥から
002号(1999年11月10日)


YOUHEN GENJI-MONOGATARI by hashimoto Osamu

窯変 源氏物語

橋本 治 著

とってもお耽美

男から見ても女から見てもたまらなく魅力的な超美形として生まれつき、観賞の対象物としてのおのれを充分自覚しているニヒリスティックな“光源氏”が一人称で語る『源氏物語』
とってもお耽美。
“光源氏”に唯一好感を持てるエピソードである“末摘花”のくだりも、なかなかいい感じで描かれていて、“蓼食う虫”としては一安心。
“光源氏”という男、女の立場からみると、“末摘花”という、ともかくも関わりを持ってしまった、どうしようもない、しかし哀れな女を、時に意地悪をしながらも最後まできちんと面倒をみるというエピソードがなければ、本当にもう、どうしようもない悪い男でしかないんだから。
まあ、悪い男だから、そこが魅力的であると言えないわけでもないんだけど。
男の視点から見た『源氏物語』であるだけに、女の親が持っている権力と結びつくことが出世の道であった、当時の男の側の“女あさり”の事情が明確に描かれていて、そこらへんも、非常に興味深いものがある。

(1〜14) 1995年11月18日〜1996年10月18日(原本は1991年5月20日〜1993年1月20日)  854円〜1,068円 中公文庫

GENJI KUYOU by Hashimoto Osamu

源氏供養

橋本 治 著

歩くことも許されなかった女たち

『窯変 源氏物語』の著者が独特の切り口で『源氏物語』を論じます。
『源氏物語』をその時代背景、社会と生活から、非常にリアリスティックに明確に解き明かして、胸落ちするところの多い、お勧めの1冊。
中でも、最初、自分の足で走って物語に登場する“紫の上”が、その後の生活の中で、一生の間、決して、走ることを許されなかった……、という指摘には、深く胸を突かれるものがありました。
(当時の上流の女性は立って歩くことすらほとんど許されなかった……、膝でにじって動いていました。)

1996年11月18日・1996年12月18日(原本は1993年10月20日・1994年1月20日) 854円・796円 中公文庫

SYDPOLEN . DEN NORSKE SYDPOLSFAERD MED FRAM 1910-1912 by Roald Amundsen, Translated by Nakata Osamu

南極点

ローアル・アムンセン 著  中田 修 訳

THE WORST JOURNEY IN THE WORLD . ANTARCTIC 1910-1913 by Apsley Cherry-Garrard Translated by Kanou Ichirou

世界最悪の旅 悲運のスコット南極探検隊

アプスリー・チェリー=ガラード 著  加納一郎 訳

読んで楽しいのは『南極点』

今世紀はじめ、南極点到達を競ったノルウェー隊とイギリス隊のそれぞれを描いたノンフィクション。
『南極点』はノルウェー隊隊長本人の、『世界最悪の旅』はイギリス隊の探検に参加した一隊員の手になる書。
二つの隊の違いがはっきりわかっておもしろかった。
輸送手段に犬を選んだか馬を選んだかが勝敗と生死を分けたとはよく言われますが……。
自由闊達で隊員一人一人を大事にし、綿密な計画のもと、楽しく目的に向かって突き進むノルウェー隊。
上官の指揮は行きあたりばったり、階級社会の匂いの色濃いイギリス隊。
食べることを重視して、質量ともに充分すぎるものを確保したノルウェー隊に対して、極地でのエネルギー計算を間違えて、必要量も確保しなかったイギリス隊。
壊血病に対する備えも、イギリス隊は、旧弊な知識を守ってまったく無効な用意でよしとする……。これはもう、準備段階で勝敗は決まっていたようで……。
読んで楽しいのはやっぱり『南極点』の方。
犬好きの方は怒るかもしれないけど。

『南極点』 1994年5月1日 922円 朝日文庫
『世界最悪の旅』 1993年1月15日 1,262円 朝日文庫

NOHOHON NINGEN KAKUMEI by Ootsuki Kenji

のほほん人間革命

大槻ケンヂ 著

“SFマニア”に嬉しい本(^^)v

著者は、“独りト学会”、“ねじれUFOファン”。
“諸星大二郎”やら“志水一夫”やら“ト学会”やらといった、“SFマニア”が大喜びしそうな、けれども、“SFマニア”以外の人はほとんど知らないのではなかろうかという言葉がボコボコ出てきて、考え方自体も“SFマニア”っぽくて“ヘン”!!
この人は“SF大会”にゲストとしてじゃなく、参加者として来るべき人なんじゃないんだろうか……。
わたしはとっても、この人の書くもの趣味であります。
『のほほん人間革命』の中では、恐怖の合法ドラッグ“ウバタマ”体験記が特におもしろかった。
「プクプクと成熟したサボテンの玉は見た目にかわいい。」とか、「生き残ったサボテンは今日もわが家のベランダで、食べられなかった幸運を喜ぶかのように、スクスクと育っている。」なんて文章も好きだなぁ。

1995年3月5日 1,000円 宝島社

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